第3話2050年【ウイルス性新薬研究施設2】
通路の天井には監視カメラが設置されており、軍の監視室を担当する兵士によって管理されている。もうすぐ自分達の救助にやってくるはずだと信じて懸命に走った。
幾つかの研究室を横切り、突き当りのエレベーターまで後数メートルというところで、玲人が背負う結子の遺体にレッドソウル化した鈴野が組みついてきた。
バランスを崩した玲人は転倒し、結子を鈴野に奪われる。深紅の双眸を結子の首筋に向けた鈴野は、瞬時に歯を喰い込ませた。
「結子ぉぉぉぉ!」
腕を伸ばし、エレベーターのボタンを押した佐伯が大声を張る。
「新藤博士ー! 早く立ち上がってください!」
(ダメだ! 完全に奥さんに気を奪われている! 奥さんは、もう死んでいるのに!
化学が恋人の俺にはわからない感情だけど、人を愛すれば盲目になってしまうのだろうか?
今大事なのは一刻も早く、ここから……レッドソウルから逃げることなのに!)
レッドソウル化した研究員達が結子に気を取られている玲人に襲い掛かった。シャノンは咄嗟に近くにあった消火器を手にし、玲人に群がるレッドソウルを殴打した。
「新藤博士! 逃げるのよ!」
危険を顧みず立ち向かったシャノンにシロが飛びかかろうとした瞬間を捉えた佐伯は、ハンディカメラを素早く床に置き、エレベーター前に飾られてる背の高い観葉植物が植えられた植木鉢を持ち上げ、渾身の力を込めてシロに投げ飛ばした。
頭脳派の化学者である佐伯が重量感のある物体を持ち上げたのは数年振りのこと。肩の関節が抜け落ちそうな感覚を覚え、顔を歪めた。
だが、渾身の攻撃だったにも拘らず、凶暴化し敏捷性も格段に上がったシロに軽々と躱されてしまう。結果、シャノンの胸部に重たい植木鉢が落下し、仲間に怪我を負わせるだけとなってしまった。
激痛を訴える表情を浮かべたシャノンは気を失い、通路に倒れた。ぐったりとしたまま微動だにしない。怪我の状態が気になる。佐伯は緊張と恐怖を孕ませた汗に掌を湿らせた。
「シャノン!」
(早く救出しないと! レッドソウルに噛まれたら大変だ!)
シャノンへと歩を向けるが、佐伯の攻撃を躱したシロが敵意を剥き出しにして、こちらに向かって突進してくる。
佐伯は覚悟を決め、歯を食いしばって構えた。飛びかかってきたシロをギリギリのところで躱し、犬の急所でもある腹部を思いっ切り蹴り上げた。怯んだ隙を狙い<死者蘇生ウイルス>が支配する頭部を素早く殴打する。
決死の攻撃を仕掛けられたシロは、バタンと横向きに倒れた。しかし、一時的なダメージである為、油断禁物だ。すぐに背を起こし、襲ってくるに違いないのだから。
息を切らし、玲人とシャノンに目をやった。
「新藤博士! シャノン!」
(ダメだ、呼び掛けても、新藤博士の耳には届いていない。それにシャノンも目を覚ます気配すら感じられない。俺に二人の命を背負えってのかよ!?)
放心状態の玲人は、野獣のように唇の端から粘性のある唾液を垂れ流し続けている結子の姿を目に映し、目頭に涙を溜め、愛する妻の名をポツリと呟く。
「……結子」
(こんなはずじゃなかった)
亡き妻の為に始めたこの実験。
それなのに―――
(結子の向日葵のような微笑みをいつも想像し、この研究に力を注いできた。彼女の為にここまで頑張ってきたのに、全てが水の泡となり……瓦解してしまった……。なぜ、こんなことに、なぜ!)
受け入れ難い現実が、玲人を奈落へと突き落とした―――
エレベーターのドアが開いたのと同時に、佐伯は声を張った。
「新藤博士ー! 早く、シャノンを連れてこっちへ!」
「……。終わった……何かもかも、終わったんだ」
鈴野がシャノンに素早い歩を向けた。しかし、玲人は一歩も動けず、結子に気を取られたままだ。愛する結子の変貌に動揺し、慄然と悲しみが交錯する金縛りから足が竦んで動けないのだろうと考えを巡らせた佐伯は、裂帛の気合と共に二人に駆け寄り、シャノンを襲おうとしている鈴野の胸部に渾身の蹴りをめり込ませた。
勢いよく蹴り飛ばされた鈴野は、宙に浮き上がった状態で後方の壁へと衝突する。佐伯は床に倒れた鈴野に目をやり、もう起き上がらないでくれと、心の中で強く願うが、その願いを嘲笑うかのようにゆっくりと背を起こし始めた。
親友だった鈴野に大声で呼び掛ける。
「鈴野! 目を覚ませ!」
沈黙の双眸が “お前の事など記憶にない” と言っている。佐伯は長年一緒に苦楽を共にした鈴野と仲間たちの変わり果てた姿に心を痛めて号泣しながら、気絶したシャノンの腕を掴み、抱き上げようとした。
それと同時に玲人がシャノンの腕を取った。
「すまいない……佐伯君。シャノンは僕が背負う」
佐伯は、漸く我に返った玲人にほんの少しの安堵感を感じた。自分一人で二人を命を背負うのは荷が重過ぎる、それ故の安堵感だ。
「新藤博士……」
玲人は涙でぼやけた双眸に凶変した結子を映し、唇を結んでから呟いた。
「結子、ごめんな……」
(こんなはずじゃなかった……一体何がどうなってこうなったのか……わからない、わからないんだ)
心の中でそう何度も同じ台詞を繰り返し、
(結子、本当にすまない)
と それ以上に何度も謝り続けた。
だが、何度謝ろうともレッドソウル化した結子は、涎の糸を垂らしながらこちらへと歩を進めてくる。
「グルルルルル……」
「……見てはいけません。彼女は―――」
“彼女は―――人を襲う凶暴なレッドソウルに変貌してしまったのですから” それを言わなくとも、“それ” を一番理解しているのは玲人なのだから、言う必要もないと考えた佐伯は一瞬唇を結び、注意を促す台詞に切り替えた。
「早くエレベータに乗らないと! 急いで、新藤博士!」
シャノンを背負った玲人は、佐伯が待つエレベータへと足を運んだ。
「今行く!」
焦燥に駆られる二人。レッドソウル化した研究員達の攻撃が止むことはない。それどころか、状況は悪化していく一方だ。
今しがた佐伯が蹴り倒したシロまでもがムクッと背を起こし、玲人に襲い掛かろうとした。両手が塞がっている玲人を助けようとした佐伯は、床に転がる消火器を拾い上げ、素早くシロを殴打し、すぐさま消火剤を放出する。
白い霧のような粉末状の消火剤に周囲が覆われた。視界が遮られた空間に向かって、手にしていた消火器を放り投げ、牽制を図る。
その一瞬の隙を狙い、大事なハンディカメラを拾い上げた。この間、電源は切っておらず、事の発端から戦慄の光景まで抜かりなく録画していた。
「今のうちに! 新藤博士! 急いで!」
シャノンを背負った玲人と共に靴底を滑らせ、エレベーターに飛び乗った。閉まりゆくドアの向こうには、消火剤にまみれて白くなったレッドソウル化した元仲間達が見えたが、そこに鈴野の姿はなかった。
どこに行ったのだろうかと疑問を感じたが、きっと自分が見過ごしたのかもしれないと思い、エレベーターの中で息を整え、玲人に目をやった。
本来なら頼れる存在でなければならない主任という立場の玲人は、動揺と恐怖の色を隠しきれずに、ただただ涙を流し続けていた。
「…………」
(きっと鈴野の姿が見当たらなかった事をたずねても無駄だ。だって結子さんしか見えてないのだから。
だけど、新藤博士……嘆いてばかりはいられないんですよ……。これから、どう事態を収拾するかに懸かっているんです。
民間人に知られてはマズい……それは軍と政府が対応してくれるはずだけど……責任は誰が取る? マジでどうすりゃいいんだよ)
一階に辿り着いた二人は、エレベーターを降り立った。ロビーにいるであろう事を予想していた軍の姿がない。佐伯は眉根を顰め、周囲に首を巡らせる。
「軍は?」
精神的に限界に達していた玲人も軍の対応の遅さに疑問を抱いた。
「なぜ、軍はこんなにも近くにいるのに遅いんだ?」
「……あり得ないですよね?」
レッドソウルがこの施設から抜け出し、南のウイルス研究に侵入すれば大ごとだ。働いてる研究者の人数は四百人を超える。
北には特殊部隊の兵士が巡邏しているからと言って安心はできない。なぜなら、最近は巡邏というより、ただの散歩を楽しんでいるようにしか思えないからだ。
ここは戦地でもなければ、命の危機もない。毎日何事もなく平和であれば誰しも気が抜けてしまうだろう、それは理解できるが……
雑談し、笑ながらのんびり歩いて、東京湾を眺め、悠長に鳥に餌を与える軍人までいるくらい。戦とは無縁の化学者から見ても、呑気としか言いようがなかった。
軍事施設と同じ敷地内で生活を送っている<ウイルス性新薬研究施設>で働く研究員達は、彼らと擦れ違っても挨拶すら交わすこともないので全員の顔すら知らない。
だから真摯に勤しむ軍人は君嶋(きみじま)指揮官だけのような気がしていた。仏頂面の強面で冗談は通じないタイプであり、部下から煙たがられている存在だが真面目な人物だ。
(君嶋指揮官の目が届かない場所ではサボりすぎ。特に彼が休暇を取ってプライベートルームで一息ついている時は。
そう考えると軍は遅いのではなく、非常事態に気づいていないのでは!? だとすれば大変なことになる!)
佐伯は軍の対応の遅さに加え、もう一つの疑問と不安が頭を過った。
「レッドソウルは足が速い。もうそろそろ一階に辿り着くはず。だけど、彼らの気配を感じない」
玲人がはっとする。
「地下通路を通れば、南のウイルス研究施設に行ける」
北で働く研究員達がウイルス研究施設に用事がある場合、わざわざ外を歩て南に向かうより、地下一階の通路を通り、そちらへと向かう。
「新藤博士……だとすれば」血の気が引いた。「本来であればラットの成功例同様、レッドソウルとなった人間も動物も生前と変わらない知能を持ち、記憶を持つ。凶暴化して自我を失った彼らに僅かな知能と、生きて行く為に必要な術の記憶が残っている可能性があるとしたら……」
極めて深刻な事態に玲人は恐怖を感じた。
「……。異常をきたしたウイルスに感染したレッドソウルは、噛みつき、唾液から感染させようとしていた。
宿主がいなければ細胞を構成単位としていない非生物であるウイルスの増殖は不可能だ。
生物の細胞を利用して自己を増殖させる……どんなウイルスも “増殖” つまり種を増やそうとする生物の特徴を持っている。
凶変したレッドソウルの目的は種を増やすこと、そう考えるのが生物学とウイルス学において論理的につじつまが合う」
自ら増殖や代謝を行える細胞から構成されている生命体に関しては生物とされ、細胞を持たずに核酸とタンパク質の殻から成り立つウイルスを非生物と呼ぶ。
非生物は細胞を持たない為、必ず他の生物の細胞に感染し、自己の増殖を行うのである。但し、定義自体は行われていない。
一呼吸置いてから玲人は続けた。
「考えたくはないが……だが考えなければならない。佐伯君の言うように生きる術の記憶が残っていたとしたら……
全ては推測にすぎないが、全員ここで働いていた知能指数が高い研究員だ。狡猾さを残した行動を取るはず……
動的ではなく静的に地下へと下り、より自己を増殖できるウイルス研究施設に向かう確率が高い。
訓練を受けた軍を相手にするより、か弱い頭でっかちな研究員の方が断然襲いやすく、人数も多いのだから」
「もしそれが目的だとすれば、こんなところで話あっている場合ではありませんね。一刻も早く君嶋指揮官に連絡を取らないと」
<ウイルス性新薬研究施設>で働く研究員は全員、緊急時に備え、君嶋指揮官と携帯電話の番号を交換している。
「僕が連絡を取る」焦燥の色を浮かべた。「息子は、賢人は大丈夫だろうか」
「非常事態を知ったなら、ここで働く研究員の家族の安全は保障されるはずです。一旦、軍内部の隔離施設に移され、感染の有無を調べるはずですから。とは言え、皆さん独身だったので……
レッドソウルが鉄橋を渡れば民間人にも被害が及ぶ。何とか食い止めないと」
玲人はシャノンを床に下ろし、手探りで防護服越しから腕時計型携帯電話の電源ボタンを押した。
瞬時に宙へと浮きあがったクリアウインドウの片隅に表示された電話帳をタップし、君嶋指揮官の電話番号を選択して、通話ボタンをタップする。
すぐにプライベートルームで休暇中の君嶋(54歳)が映し出された。余程の事情がない限り、研究員から連絡は稀だ。それ故、前置きの挨拶は省き、何が起きたのかを手っ取り早く訊いた。
『どうした?』
「緊急事態です! <死者蘇生ウイルス>に何らかの異常をきたし……」
元々この実験をよく思っていなかった君嶋は、台詞の途中で眉を顰めた。
『異常だと!?』
<死者蘇生ウイルス>に何らかの変化が起きたことは “明白” だ。だが “何が起きたのか?” に関して、化学者である自分達の理解と想像を超越した未知の領域である為、現段階において “明白” な説明を求められても、返答不可能だ。
機転を利かせた佐伯は、カメラに収めた映像を見てもらった方が早いと考え、ハンディカメラの再生ボタンを押し、液晶画面をクリアウインドウに向けた。
研究員の鈴野がシロに噛まれるところから、気絶したシャノンを背負う玲人と共にエレベーターに乗るまでの壮絶な一部始終を見た君嶋は顔色を変えた。
『なんだこれは……だから俺は得体の知れない<死者蘇生ウイルス>の実験は反対してたんだ!』
君嶋の顔が映し出されたクリアウインドウに向かって佐伯は声を張った。
「凶変したレッドソウルが南のウイルス研究施設に向かった可能性があります」
『あのバカども! 怠けやがって! 監視係は何をしている!?』怒りを露わにした。『くそったれが!』
過酷な訓練を積み、命懸けの戦地をも経験してきた特殊部隊が<化学島>に派遣された当初、兵士達は真面目に任務に勤しんでいた。しかし、戦地と打って変わり、毎日が平和だ。彼らにとって、この<化学島>は楽園のような島だった。
異常事態も起きやしない。東京湾の波の音や浜風の潮の香りが彼ら兵士の心に平和を齎した結果 “平和ボケ” がウイルスのように蔓延し、仕事を怠惰するようになってしまったのは致し方あるまいと思っていたが、最近では目に余るようになってきた。特に自分の休日は。
玲人は<死者蘇生ウイルス>の対処に当たり、忠告する。
「必ず防護服は着用してください」
『当たり前だろ』鼻で笑った。『得体の知れないバイオハザード物質に飛び込むのだから着るなと言われても着る。で? 息子は家に居るのか?』
「……はい」
自分から話を振らなくても賢人を案じてくれた事に安堵する余裕はなかった。なぜなら最も恐ろしい最悪な事態を想定したからだ―――
シロが狂犬病ウイルスに感染していたなら……人工ウイルスである<死者蘇生ウイルス>と異種の狂犬病ウイルス間で組み換えが起きたとすれば……
それが人々に感染し、急速に広まれば新興感染症(エマージング)を懸念せねばならないが、それに対抗すべく手立てがない。未知故、感染者を隔離する以外方法がない……
エマージングとは、WHOの定義によると「かつては知られていなかった、新しく認識された感染症で、局地的に、あるいは国際的に公衆衛生上の問題となる感染症」とされている。(出典:感染症.comより(尚、言葉の一部を変えています)
しかし、それに関してはっきりとしたことが言えない以上、エマージングに関してはパニックを引き起こすだけである為、それを伏せてギュッと唇を結んだ。
だが君嶋も無知ではない。ウイルス兵器に関する知識を持ち、戦地では的確で緻密な戦略を立てるプロだ。ピクリと右眉を上げ、静かな声でたずねる。
『エマージングを懸念するべきじゃないのか?』
「あ……」(さすがは君嶋指揮官だ)固く結んだ唇を開く。「その確率は非常に高いと言えます……飽く迄僕の見解ですが……」
『ちっ!』舌打ちする。『なんとしても早急に感染を食い止めねば。白い狂犬とレッドソウル化した連中のサンプルが必要なのだろう?』
「はい。僕も現場へ出向き、採取しようと思います」
『スピッツに入れるくらいなら俺でもできる。お前らみたいにひ弱な人間は足手まといになり兼ねん』
「ですが……」
非常事態なのは嫌というほど理解している。南のウイルス研究施設に妻がいるはず。
軍の手ではなく、自分の手でレッドソウルから解放してあげたい―――
そして、最後に愛していると伝えたい―――
『まぁ、いい。来るならさっさと軍まで来い。足手まといになったらその場で張り倒す』
「はい」
玲人が返事を返すのと同時に君嶋は何も言わずに電話を切った。腕時計型携帯電話のクリアウインドウから君嶋の顔が消えたので、玲人は電源ボタンを押した。
「私も行くわ」
気絶していたシャノンが目覚め、胸を押さえながら背を起こした。胸の痛みを堪えるが、その表情まで耐えることはできずに顔を強張らせた。
「大丈夫か!?」玲人はシャノンに歩み寄り、肩を支えた。「無理しない方がいい」
「シャノン、すまない、俺のせいで……」
「佐伯君は悪くないわ。息をすると少し痛むけど大丈夫よ」
真剣な面持ちを二人に向けた。
「貴方の予想は100パーセントに近い形で的中していると思う。シロはおそらく狂犬病を持っていた。異種のウイルス間で組み換えが起きたとしか思えない。未知なる凶暴なモンスターウイルスに改変されたと考えるべきよ。事の重大さは私達の想像を遥かに超えるわ」
「……新藤博士」佐伯は疑いの目を向ける。「まさかこの期に及んで、奥さんの蘇生を諦めてないわけじゃないですよね?」
「…………」玲人は双眸に涙を溜めた。「この手で普通の死者へと戻してあげる事がせめてもの愛情。だから君たちは軍事施設で休んでいた方がいい。飽く迄僕の私情なのだから」
シャノンは痛む胸を押さえて、玲人の顔を見つめた。
「新藤博士に着いて行きます」
「ふー」呆れた表情を浮かべた佐伯は、溜息をつく。「新藤博士一人行かせられませんよ。無茶をやりかねませんから」
(この人は、どこまで、奥さんのことを……シャノンは辛くないのだろか……)
立ち上がったシャノンは、エレベーターへと歩を向ける。
「スピッツは三階のスーツ型実験室内にもあるわ。もう一度実験室を視たいのよ。変貌したヒントがどこかにあるかもしれないし」
「そうだな。行ってみよう」
「俺はないと思うけどな」
「レッドソウルはもうこの研究所にはいないはず。スピッツを取りに行った後、急いで軍事施設に向かいましょう」
歩を進めながら、玲人の目を見て重い口を開いた。
「彼ら……軍は、私達が防護服を着て研究していた理由を知っていると思う? <死者蘇生ウイルス>を生きたラットに投与した場合、細胞破壊が起きることを……」
「わからないよ。もしかしたら知らされていないかもしれない」
佐伯がポツリと言う。
「時期が早すぎたんだ。だからもっと研究するべきだった……アイツらの頭の中は金だけですよ。人命より国益ってことでしょうね」
エレベーターのボタンを押した玲人は、<死者蘇生ウイルス>を生きたラットに投与した五年前の夏に記憶を巡らせた―――
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