第19話
『彼』は、それぞれの会話を盗み聞きして『何か』とんでもない事が
混じっている事に気がついた
それは昨日まで自分が過ごしていた『世界線』とは明らかに違う事を
意味している
『とんでもない事』について考えようとした時、上空から爆音が響いてきた
『彼』は意識を一旦上空を見上げてみれば、大型ヘリ100機が見事な
編隊飛行で飛んでいた
その大型ヘリについて、『彼』はたまにテレビニュースや映画などで
登場するので 少し見覚えがった
それはCH-47チヌークと呼ばれる輸送型ヘリコプターだ
全長17mを超える巨大な機体に30名近い人員や物資を乗せる事ができ、
また、その積載量の多さから多くの国家が運用する軍用輸送機だ
この時点では、『彼』は種類と名前までは詳しくは知る事はないが・・
そのヘリ編隊を茫然と観ているのは、『彼』を含めれば数えるほど
だけしかいない
ほとんどが銃器の点検やスマートフォンの操作に忙しくて、上空のヘリには
目もくれない
中には、そんなヘリを興味深げに見つめる者もいたが、 その者達は
皆眉間に皺をよせた表情をしている
まるで、これから起こる厳しい現実を受け入れるかのように
しかし、その表情は覚悟を決めたような貌つきだ
そんな状況でも3人の会話だけは、なぜか『彼』の耳に入ってきた
「……『自衛隊」って、それはいつの時代の呼称だ?
『警察予備隊』だろ?」
中年男性が、わざとらしく呆れた表情を浮かべつつ
お道化るように呟く
その男性の言葉を聞いた女性や幾人かの通行人が笑いを
押し殺していた
どうやら、中年男性の呟きは冗談の様だがどこか自嘲気味にも聞こえる
「どっちも『ファーストコンタクト』前の呼称だな
今は『日本国防軍』だ
陸軍、海軍、空軍、海兵隊、国防情報局、国土防衛総省がある
あとは国防軍直轄の特殊組織で、各分野のスペシャリストが
所属する国防軍情報部もな」
マクミラン TAC-50を整備していた男性が、苦笑いを浮かべつつ
応える
「 確か『ファーストコンタクト』は、『1999年7月』よね?」
若い女性が何かを思い出す様に、首をかしげながら呟く
「あぁ、そうだ
ある有名な預言者による、予言が的中したとかで当時は世界各国の
政府や世論も糞をひり出したような騒ぎだったな」
中年男性が、うんざりした顔で口を開く
「未だに暇人共が議論しているが、それは『地球規模』の大侵攻だろ?
『鬼獣』と人間の『ファーストコンタクト』は、『1947年7月8日』の
アメリカ合衆国ニューメキシコ州ロズウェルでの接触した事だと思うぞ?
個人的に、あの『大侵略』が『ファーストコンタクト』と言うのは、
どうかと俺は思うがな」
マクミラン TAC-50を整備していた男性が、どこか悲しそうな
表情で呟く
その男性は、他の二人とは違った雰囲気を纏っている
「『1947年7月8日』以降から『1999年7月』『鬼獣大侵略』が
あるまでの間にまさか『鬼獣』に関する情報と小規模交戦を
UFO事件やUMAとして情報操作していたなんて本当に笑えない冗談だ」
中年男性が険しい表情で呟く
その表情は、どこか怒りを感じさせる
「あれでしょ?
『鬼獣大侵略』前の西側諸国と東側諸国との『冷戦』は、表向きは資本主義・
自由主義陣営と共産主義・社会主義陣営との対立構造だったけど
真実は『鬼獣』に対する有効的な戦略や兵器の開発競争を隠蔽するための
ものだったんでしょう?
ロズウェルの『ファーストコンタクト』翌年・・・『1948年頃』より
『1950年代前半』にかけ主にアメリカ合衆国とその友好国である西側諸国で
行われた『赤狩り』・・・七十年代世界各国で吹き荒れたテロリズムや
日本国内での安保闘争や学生運動の原因は『誰か』が複数の『正しい情報』を
密かに流していたからなんでしょう?
西側先進国の国民達は知らず識らずのうちに踊らされて
いただけなんですからね?」
若い女性は、呆れ果ててものも言えないといった表情で肩を落とす
「学校の授業で寝てたタイプか?
正しい”情報”を密かに流した結果がその出来事だったのは合ってはいるが、
『1948年』から『1950年代』前半にかけて行われていた『赤狩り』は、
複数の『正しい情報』を意図的にリークして混乱を招いた連中のせいだろうが」
マクミラン TAC-50を整備していた男性が、険しい表情で呟く
「ありゃ? そうだったか?
当時のアメリカ大統領トルーマンは『赤狩り』に関わっていたんじゃないのか
ロズウェル『ファーストコンタクト』の翌年、1948年トルーマン大統領は
FBI長官のジェームズ・エドガーに対して、 共産主義者や民主主義に反対する者を
徹底的に調査するよう指示していたんだろ
その後、朝鮮戦争で苦戦していたアメリカ軍は、共産主義の浸透を防ぐ為に
アメリカ国内の共産党員の摘発に力を入れたらしいが、それが結果的に
多数の逮捕者を出し、大規模なデモが発生して民主党が政権を
手放すきっかけになった
・・・って 学校で習って習ったぞ」
中年男性が遠ざかっていくヘリの編隊を見ながら応える
「・・・・あんたもか
それはあくまでも『表向きの理由』だ。実際は当時具体的な対策もない状況下で
『鬼獣』に対抗するには、 西側諸国と東側諸国による軍事的共同戦線しか
方法がなかったんだよ
あと存在を『公表』すればパニックになるから隠蔽したって話だ
実際『鬼獣』書籍やネット系都市伝説動画で、西側諸国全体の政府関係者や
軍関係者にさらには『鬼獣』の存在を偶然に知って
公表を行おうとしたハリウッド芸能関係者や 映画監督
作家などが社会的に抹殺されたり行方不明になっているケースが多いって
解説しているぞ」
途中から会話に加わっていたマクミラン TAC-50を整備していた男性が
肩をすくめた
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