第12話
地獄のような光景を目の当りにしている『彼』には、その光景がどこか遠くの
世界で起きている 出来事のように感じられた
コンビニのガラス越しに見える、外の世界の光景はまるで現実味がない
マンションのベランダやビルの屋上に視線を向けると、路上を
見ている人影が幾つも見受けられた
が、その誰もが手にしているのは狙撃銃らしきものを構えている
その構え方は、明らかに素人のそれではなかった
全員が『迷彩服』と『戦闘ヘルメット』を着用しているのだが、人影の中には
女性や子供、老人や老婆の姿もあった
しかし、その誰もが躊躇することなく、手慣れだ動作で狙撃銃の
点検を済ませると狙撃位置についていた
そんな彼らの姿を眺めていると、『彼』は何とも言えない気持ちになってくる
良く見ればマンションやビルからはロープを垂らして、寸分の
狂いもなく最大速度で 懸垂下降を行っている姿もちらほらと見受けられる
さらに、二階くらいの高さ程度から受け身を取って飛び降りる猛者までもが居た
そのどれもが、プロ顔負けの動きだ
みな迷彩服や戦闘ヘルメットにボディーアーマーなどを装着しており、中には
防弾シールドや各種装備を背負う者も居る
時間にしてわずか三秒――地上に降下した住民達は置かれている
状況を把握しようと周囲に視線を向けている
すると、恐ろしいほど洗練されて無駄のない動きで、手に持つ
銃の銃口を『鬼獣』に向け始める
照準の先には、『彼』がテレビで見た事がある『ゼノモーブ』――
この『世界線』では『鬼獣』と呼ばれる化け物に向かって
引き金を引こうとしている
そして、次の瞬間には 銃声が轟き、銃弾が撃ち放たれた
『鬼獣』の肉体に風穴が開き、緑色の液体が飛び散り、耳障りな
金切声を上げる
それは『鬼獣』が上げる断末魔の声だ
「こいつら何処から湧いて出てきたんだ?」
ベレッタ ARX160の引き金を絞っている男性住民が、眉間に
シワを寄せて呟く
マガジン内の弾丸を撃ち尽くすと、すぐさま新しい弾倉に交換し、
スライドストップを解除して装填を終える
「さあな!!だが、俺達は俺達の出来る事をやるだけだ!」
隣でH&K P2000を撃っていた男性が叫びながら答える
放たれた弾丸は、狙い違わず『鬼獣』の胴体部に命中し
肉片と緑の体液を撒き散らす
「マンション管理人より、各住居民へ――!!
各自の判断で応戦せよ!! 繰り返す!! 各自判断で応戦しろ!!」
拡声器を持った人物が、大声で指示を出すと、住人達も次々と
『鬼獣』に向けて攻撃を開始する
『――こちらマンション四階屋上班! 至急援護する!! 繰り返す! 援護する!!』
屋上に陣取っている数十名の男女が屋上に備え付けられた柵を取り外すと、
それぞれの狙撃銃の安全装置を外しては引き金を絞りはじめる
凄まじい反動と共に、音速を超える速度で弾を吐き出された銃弾は、
金切声を発しつつ向かってくる『鬼獣』に着弾し、弾き飛ばす
しかし、次々と群れで押し寄せる『鬼獣』に対して、いくら狙撃銃とは言え
数に限りがある
それに、これだけの数の敵を仕留めるのは無理があった
無線機からの悲痛な応答を聞いている三階マンションフロア住民達は、
各々が持っている銃器の点検を素早く行うと 迎撃準備を整えていく
マンション屋上にいる狙撃部隊も同じく、狙撃銃の弾薬を装填し直し、
銃の点検を行う
「どうなってんだよ!? 」
H&K HK416アサルトライフルの点検を素早く行っている男性住民が悪態をつく
その表情には焦燥感が滲み出ている
周囲には、混乱と恐怖に駆られているマンション住民達が
それれぞれ手に持っている銃火器の手入れをしている
「落ち着いてください! 僕達がパニックになってどうするんですか!?」
そんな中で、一人の少年らしきマンション住民が緊張した表情を
浮かべつつフロア住民に呼びかけた
まだあどけなさが残る高校生ぐらいだが、手慣れた動きで
H&K HK416アサルトライフルのメンテナンスを行っている
その瞳には強い意志が宿っていた
そんな少年に1人の男性住民が話かけた
「坊主、お前さんよく平気な顔をしてられるもんだ」
問いかけた住民は、MP7短機関銃のマガジンポーチから弾倉を引き抜き、残弾を
確認している最中だ
「これでも、内心では怖いですし、不安なんですよ?」
H&K HK416アサルトライフルのメンテナンスを行っている少年は
苦笑いしつつ答えた
その傍らでは、2人の女性住民がM240機関銃の分解清掃を
手慣れた手つきで行い、銃身にクリーニングロッドを取り付けていた
手慣れた手つきから、彼女たちが日常的にその手のものに
触れている事が伺える
他の住民も手慣れた手つきで、手持ちの銃器のメンテナンスを行っていた
「 『鬼獣』発見!!』
その時、誰かが大きな警告を叫んだ
声に反応して、住人達は一斉に貌を上げて外を覗き込んだ
そこには遠目からでもわかるほど発達した筋肉の塊の、巨大な狼のような
外見を持つ『鬼獣』の群れがマンションへと向かって来ている
全身の体毛が非常に明度の低いほぼ漆黒と呼べるような色彩、5mを超えた巨躯だ
牙は鋭く尖っており、刃物のように鋭く、眼光は、血に飢えた猛獣そのものだ
「 鬼獣『侵略者』を排除する!ここはもう戦場だ!!
自分の命が助かりたかったら、一匹たりとも『鬼獣』を通すな!!」
拡声器を持った男性住民の号令が響き渡る
同時にマンション各フロアからは、続々と鬼の様な形相の住民達が
飛び出してくると鬼獣『侵略者』に向かって、マンション建物内から手持ちの
銃火器類を構えて攻撃を開始した
それを待ち構えるかのように鬼獣達も雄叫びを上げながら、突っ込んでくる
銃火器類には分隊支援火器も唸り声を発している
それも一丁だけではなく、少なくとも二十丁近く銃弾の嵐を吐き出している
『侵略者』と呼称された『鬼獣』は、銃弾を喰らい、緑色の体液を
撒き散らしながら倒れ伏している
が、中には巨体に似合わない俊敏な動作で回避している個体もいた
「『侵略者』後方より、鬼獣『兵隊』を視認!数、多数っ!!
こちらに向かっています!」
フロア住民の1人が、H&K HK416アサルトライフルのストック部分を
肩に当てて構えながら報告する
「ちぃッ!『侵略者』だけじゃないってのかよ!」
MP7短機関銃で 鬼獣『侵略者』に向かって引き金を絞る男性住民が罵る
兵隊』と呼称された『鬼獣』は、『彼』がの姿を確認して『ゼノモーブ』と
称した宇宙生物だ
その数はおよそ数千匹ほどが、金切声を発して突撃してくる
それはさながら、津波の様にも見えた
その光景にフロア住民達が握る 銃に力がこもり、必死の形相を
浮かべながら銃撃で迎え撃つ
「鬼獣『兵隊』、さらに急速接近!! ――クソッタレがぁあああ!!」
フロア住民の1人が叫びつつ、手に持つMP7短機関銃の連射で撃ち込む
鬼獣『兵隊』と『侵略者』とマンションフロア住民の死闘が始まった
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