第9話


「(何だっ!? このサイレンは!?)」

 生理的に警戒をかき立てるその音に、『彼』は思わず表情を

 歪めカゴを思わず床に落とした店内にいた

『彼』にはあまり耳に馴染みのないものだが、『彼』のいた『世界線』では

『国民保護サイレン』と呼ばれているものだ

 そのサイレンは、災害時などに鳴らされるものとは違うものだ

 日本は、災害大国と言われるほどに地震等の自然災害が多く、 その為国民は

 防災意識が高い


 しかし、この『世界線』の日本国内では現在自然災害とは違う

 脅威に晒さているのだ

『国民保護サイレン』は、日本国民が武力攻撃を受けた際に

 鳴らされるもので、主に火災警報器などと共に設置されている

 国民保護サイレンが鳴らされた際は、速やかに最寄りの

 避難場所に避難しなければならない

 国民の安全を第一に考え、国民を危険から守る為に

 鳴らされるものだのだが・・・・



 この『世界線』では違う意味を持つ

 現にそのサイレンは、ただの警告音ではない

 まるで警報の様に、危機感を煽る様なけたたましい

 音を鳴らし続けている

 店にいる他の客達も不安げな表情を浮かべているのが、『彼』にもわかった

 そのサイレンが鳴ると同時に、外からは凄まじい発砲音と

 爆発音が聞こえはじめた

『彼』だけはぎょっとして、コンビニ出入り口に視線を向けてしまった

 サイレンは1分もしない内に鳴り止むが、外からは相変わらず激しい

 銃撃音と爆音、それに悲鳴と怒号が聞こえる

 このコンビニの近くで、どうやら大規模戦闘が起きているようだ

 しかも、今いる地域が戦場になっている可能性がある

 それにしてもこのコンビニの近辺で、一体誰が『何』と闘っているのだろうか? と、

『彼』ふと疑問に思ったが、今はそんなことを考えている場合ではなかった

 その疑問の答えを出すかのように、タイミングを計るように外から薄汚れた

『戦闘用ヘルメット』と『迷彩服』を着用をした

 男性が1人、店内に飛び込んできた

「(えっ!? 強盗かっ!!)」

『彼』は飛び込んで来た男性客に、おもわず『彼』は驚愕した

 男性客の表情は、恐怖のためか蒼白だ

「 『鬼獣』が出現した !! 応戦準備してくれっ」

 男性客は店内を見渡しつつ、そう叫んだ



 その言葉と同時に、店内の空気がおそるべき速度で変化しはじめた

 空気の質が緊迫したものへと変わったのだ

 それは、ついさっきまでコンビニで流れていた日常の風景から一変して、

 非日常に変貌していく瞬間だった

 店内にいた客達は、男性客の言葉を聞き即座に行動に移った

 雪崩れこんできた男性客は、罵り声を発しながら再び外に戻っていく

「おいおい!? まさか 冗談だろっ 

『鬼獣』出現予報だと、本日この地区では現れないとか

 言っていたじゃないか!!」

 弁当売り場の近くにいた男性客が焦った表情で叫びを上げた

 その声に反応するように、他の男性客も驚きを露わにした

 表情を男性客へ向けた

 コンビニ店員もその言葉に同意するように、首を縦に振っている

「『鬼獣』出現予報なんか、天気予報並みに当てにならねぇよ!

 今までだって、いきなり現れた事あっただろうが!

 ほら、いいから急げっ!!」

 別の男性客がそう言いつつ手に持っている小銃の安全装置を外すと、

 外に飛び出して行った

「糞鬼獣どもが!! 鉛玉を喰らわせてやる!!」


 弁当売り場の近くにいた男性客も、そう叫ぶと小銃を片手に

 外へと駆け出して行った

 いや、それだけではない。

『彼』以外の店内にいた、来店中の客やコンビニ店員も 必死の

 形相でそれぞれが持つ銃器を手に取り、店から出て行った


 中には、レジカウンターの上にお金を置いて行く客もいた

 皆一様に緊張し、表情が強張っている

 だが、その貌には覚悟を決めたような決意が表れていた

『射撃コーナー』からも十数名の客が飛び出してきて、それぞれが

 持つ銃器の安全装置を解除すると罵りつつも

 それぞれが一斉に走り出し、外へと飛び足していく

 その速さは常人の比ではなく、まるでその流れる様な

 動きは訓練された軍隊のそれだった

 突然の出来事に『彼』は呆気にとられた

 気が付くと、店内に残っている客は『彼』1人だけになっていた


 続けざま外から飛び込んでくるのは、発砲音と爆音 そして、悲鳴と怒号だ

 派手な発砲音は1つ2つだけではなく、40丁以上の拳銃の一斉射撃のようだ

 音は、絶え間なく止むことなく続いている

 発砲音に混じって、肉が弾ける音と骨が砕かれる音が聞こえ、悲鳴が止むことは

 無く怒号はさらに激しさを増していく

 音には、微かにだが地面を転がるような音も混ざっていた

『彼』も聞いたこともない耳障りな金切声も聞こえる

 察するに、外で繰り広げられているのは地獄絵図なのかもしれないが、

 コンビニ店内だけは妙な静けさが漂っている

 耳障りな金切声を発する『何か』は、激しく攻撃しているようでもあった

 暴れ狂い殺し合っている音を聞いていると、『彼』は何故か不安感が

こみ上げてくる

「(いったい・・・何が・・・)」

 彼は本能的に屈みこみながら、恐る恐る出入り口の方へ顔を向けた



 視界に飛び込んできたのは戦闘ヘルメットと迷彩服を着用した大勢の

 通行人らしき者達が、鬼の様な形相で自動小銃の引き金を絞っている姿だった

 彼らの手に持つ小銃から撃ち出されているのは、実弾だ

 遊底からはじきだされた空薬莢が乱舞し、甲高い金属音を響かせている

 どう見てもモデルガンではなかった

 また、通行人が引き金を絞っている銃器は統一されてはおらず様々な

 重火器類で掃射していた

 その光景は、映画の撮影でもなければドッキリ番組でもない

 ただただ無慈悲に、冷酷に、冷徹に、その非現実的な現実が

 目の前に広がっているだけだった

 それは、まるでテレビニュースで流れる戦場の光景だ

『彼』は、大勢の通行人が一斉に引き金を絞っている方向に視線を向けると――

 奇妙な集団が視界に入ってきた

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