第8話

「選挙権を放棄したのかよ?」

 2人組の1人が、片方の耳にイヤホンを付けている男性を揶揄するように言った

 もう一人のその男性は、肩にライフルを背負っていた

「どうせどちらの政党に決まっても、『日本国民義勇兵法』によって徴兵されるのは

 間違いないからな。

 だったら、最初から俺は自分の意思で『志願』する方を選ぶぜ」

 苦笑しながら、背負っていたライフルを男性はライフルを下ろした

「 どっちの政党の政治家も『国民の義務を果たせっ! 日本を人類を救えっ!!』

『人類の断固たる決意を証明してやれ!』としか言わんしなぁ」

 片方の耳にイヤホンを付けている男性客は苦笑いを浮かべつつ応える

「まあ、ご時世、貧乏人だろうが金持ちだろうが『日本国民義勇兵法』で、

同盟国の『鬼獣蔓延戦域』に強制的に赴くのは仕方ないけどな」

 ライフルを背負っていた男性客が渋い表情を浮かべて言う

「まあ、それはそれとして、もう少し射撃の腕は少しあげろよ。

 いくらお前さんがジャカルタ派兵帰りでも、今は一般人でしかないんだぞ

 ただでさえ、日本国でも『鬼獣』とドンパチしている状態なんだ

 いつ再び『大群』が襲ってくるかもわからないのに」

 片方の耳にイヤホンを付けている男性客が、ライフルを背負っている

 男性客へ注意を促す様に言う

 それには、真剣な眼差しがあった


「日本国内が、今まで以上に『鬼獣』に蹂躙されるまでにあげるさ」

 ライフルを背負っていた男性客は、冷静に言い返す

「射撃あげなきゃ、苦労するのはお前だぜ」

 と、もう片方の耳にイヤホンを付けた男性客が

 ふぅと溜息をしつつ言う

「ジャカルタの時は弾薬は無いわ、支援攻撃は来ないわ、『鬼獣』の

 大群は押し寄せてくるわで あの時は、本当に死ぬかと思ったぜ」

 ライフルを背負っていた男性客は苦笑交じりに応える

「・・・シンガポール派兵に比べれば、まだジャカルタはマシだよ

 俺の時は補給物資も最前線には届いていなかったからな。

 おまけに、前線に届く頃には、中身はほとんど腐った缶詰とかだったし。

 それでも、何とか生き残れたから良かったものの、下手したら

 シンガポール派兵組は『鬼獣』の死骸と肥溜めの中で死んでいたかもしれない」

 片方の耳にイヤホンを付けた男性客は、渋い表情で言いながら、ライフルを

 背負っている男性客に顔を向ける


 2人組の男性が雑談に聞き耳を立てていた『彼』には、全く理解できなかった

 せいぜい理解できたのは選挙という単語ぐらで、会話の内容の大半は何を

 言っているのか分からなかった

 だが、2人組の男性達が話している内容から察するに、彼らはどうやら選挙に

 関して何かを話しているのは分かった

 その2人組は、さらに何か雑談をしながらコンビニの外に出て行った

『彼』は息を吐き、目当ての朝食をカゴに入れてレジへ向かう

 ―――――――その時、店の外から耳障りなサイレンが鳴り響いてきた

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