第5話

 足早にその場を駆け抜けた『彼』は、コンビニ前の駐車スペースで足を止めた

 駐車場には複数台の車両が停まってはいるが、どれもが雰囲気が物々しい

 停まっている車両のどれもが、『彼』がテレビニュースや戦争映画で登場している

 戦闘装甲車や軍用車両に酷似している

 それらの車両は、迷彩柄に塗装されており、車体側面には複数の

 機関銃が取り付けられていた

 また、タイヤはゴム製ではなく、硬質な鋼鉄製のワイヤーで固定されている

 さらに、車両上部には対空機銃と思われる物が備え付けられていた

 しかも、どの車両もまるでついさっきまで『何』かと戦闘をしてきたかの

 様な傷痕が残されている

 中には装甲の一部が剥がれ落ちているものもあれば、砲塔部分が

 変形してしまっているものもあった

 それらを見た瞬間、思わず『彼』は背筋が凍るような感覚に襲われる

 何台かの戦闘装甲車や軍用車両の周りには、迷彩服を着込んだ

 人の姿があった

 よく見ると、忙しなく走り回っている

 どう見ても一般市民には見えないが、今の置かれている

 状況を考えると『彼』は、あまり深く詮索しない方が

 良さそうだと考えていた




 それにコンビニの店内で買い物をしている客達も、全員が迷彩服と

 戦闘用ヘルメットを着用している

 明らかに普通の格好ではない

 誰もが明らかに銃器を所持しているのが『彼』の視界からも見て取れた

 その様子を見て、ふと『彼』は疑問に思った

 なぜこんなにも多くの人が、本物なのか単なるモデルガンなのか『彼』は

 判断できなかったが、銃らしきものを所持をしているのか

 その答えは、未だにわからなかった

 ここは日本であり、彼等は日本人だ

『彼』の知っている日常では、彼等のような迷彩服をしている

 人間は見かけない

 それどころか、街中でも見かけることはないだろう

 彼等の服装はどこかの軍隊や特殊部隊の隊員のようにも、

『彼』には見えた



 コンビニの入口には、ゴツいアスリートの様な体格に迷彩服を身に

 着けた男性が立っている

 正直な話、『彼』に取っては近寄りたくはないし関わり合いにもなりたくない

 その男性は戦闘ヘルメットも被ってはいる

 お洒落な飾りなのか、赤い羽根を戦闘ヘルメットに付けている

 ガムを噛みつつ、真剣な表情で『手野新聞』という名の新聞を

 広げて読んでいる

『彼』からすれば、聞いた事も見た事もない新聞であった

「(関わりたくないなぁ。さっきからあちこちで見る車両といい、

 今の状況と言い、ここは完全に俺の知ってる『世界』じゃないぞ)」

『彼』はそんなことを考えつつ、男性の横を通らなければコンビニ内には

 入れない為、仕方がなく男性の横を通り過ぎた

 特に絡まれることもなく、『彼』は安全圏を求めてコンビニのドアを潜った

 この時の『彼』は余裕もなく気づいてもいなかった

 男性が眼を通している『手野新聞』一面に、ある見出しが掲載している事に

 ―――その見出しは、次のような内容だった

【緊急速報】

 中東、欧州、アラスカ、南米、米国西海岸『鬼獣激戦区』へ派兵された

 日本国民義勇兵隊及び日本国防軍の3割が無事帰国

 なお、今回の第3次ロサンゼルス攻防戦で確認された新種『鬼獣』については、

 後日国防省が発表予定とのこと

 ※追記 今回、新たに発見された新種は、既存の『鬼獣』とは明らかに

 異なる特徴を持っており、 今後の調査に期待できる



 それと共に掲載されている写真には、老若男女の姿が写っていた

 写真が撮られた場所は廃墟と化した市街地で、全体的に暗い画像だが、

 瓦礫の山がいくつもあるのが分かる

 ――そこには、様々な国籍の人間が写っている

 しかし、いずれも武装しており、平和的とは思えない

 撮られた人々は、先程まで凄惨な死闘を繰り広げていたためか、

 皆、眼の下に隈が出来ており疲れ切った表情を浮かべている

 中には負傷した者もいる

 それでも、その場にいる者達は一様に満面の笑みを浮かべていた

 極限状態の中で闘い続けたせいだろうか、生き残ったという

 喜びを分かち合いたいのか、お互いの 健闘を称え合うかのように

 肩を叩き合っている



 よく見ると映っている何人かには、明らかに致命傷を負ったと

 思われる者もいれば、腕や脚がない者もいた

 また、身体の一部を失っている者も少なくない

 そんな人々ですらも、笑顔を絶やさず、涙を流しながら抱き合っていた

 それは、まさに一つの戦闘が終結した後の戦場跡地の写真であった

「明日は我が身か」

 ガムを噛みながら『手野新聞』を広げて読んでいた男性が呟く



 コンビニ店内に入った『彼』が、店内を見回して最初に発した言葉は――

「なんだ、ここ?」

 という言葉だった

 風景は、今まで『彼』が見てきたコンビニと根本から異なっている事が

 わかってしまったからだ

 それは、コンビニの店内で買い物をしている客達を見れば一目瞭然だ

 店内にいる客達全員が迷彩服と戦闘ヘルメット着用し、外からでも

 見えた誰もが銃器を所持しているのだ

 それもただ持っているのではなく、まるで護身用と言わんばかりに

 腰にぶら下げている者や、懐に仕舞っている者すらもいる

 店の陳列している商品は、『彼』が知っている日常で見る商品が並んではいるが、――――――― 

 日本国内ではありえない売場が店内にはあった

 驚きのあまりに立ち尽くした『彼』の視線の先には、そこだけが

 軍事博物館のような雰囲気を漂わせていた

 そこには様々な種類の銃器類や大型の銃器が立て掛けられていたり、

 陳列されていたりする


 また、壁には無数の銃器類も飾られている

 それらは、どれもこれもが日本ではまずお目にかかれない代物である

 特に、銃口が異様に大きい銃や、銃身が長かったりと銃の種類も豊富である

 さらに、拳銃から機関銃やライフルといったものまであった

 素人の『彼』にも何となく『本物』ではないかと思わせるほどの出来だ

 なぜならば、それらの銃器はモデルガンとは違うまるで本物のような

 迫力があったからである

 しかも、銃だけではなく弾薬等も売っている棚もあった

 まるで米軍基地にある売店のような感じだ



「(銃器販売コーナーとはどういう事だろうか?)」

『彼』の知っている日本国内では、ありえない品揃えだ

 さらにその向こう側には、『射撃場コーナー』なる場所も見える

 そこでは、小銃、機関銃、狙撃銃などの銃を手に取り試射する事が

 できるようになっていた

 現に、複数の人々が射撃訓練を行い、乾いた音が響かせていた

 その音が、『彼』に現実である事を証明するかのように響いている

 まさに異質な光景であった



 SF映画の中に迷い込んだかのような感覚に陥りそうになりつつ『彼』の耳に、

 2人組の男性客が喋っている会話が入り込んできた

 2人は籠にホットコーヒーを詰め込みレジに向かうところであった

 片方は長身痩躯で髪は短めで眼鏡を掛けている男性で、もう片方は

 筋肉質の体格に坊主頭の大柄な男であった

「H&K社が新販売した『鬼獣』用の銃を買うつもりだ」

 長身痩躯で髪は短めで眼鏡を掛けている男性の方が言う

 戦闘用ヘルメットには、『力』を意味するタロットカードを張り付けていた

「俺は、無反動砲を買おうと思っているぞ

 あれがあれば、どんな鬼獣であろうと粉砕できるだろう」

 もう一人の大柄で坊主頭でサングラスをかけた男は、不敵に

 笑いながら言った

 戦闘用ヘルメットには、戦車を擬人化させたような

 イラストが描かれていた

「ハッ! そんなもん、知り合いも購入していたが、結局は『鬼獣』に殺されたよ」

 長身痩躯で髪は短めで眼鏡を掛けている男性が、愚痴るように反論した

 その男性は、どこか悔しそうな表情を浮かべている

 愚痴みたいだが、色々と内容がおかしい

『彼』が聞き耳を立てつつ聞いている限り、まるで駄菓子感覚で

 銃器が買えるようにも聞こえた

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