第4話


 4人組の学生達はまだ楽しそうに雑談を続けてはいたが、『彼』は

 それ以上聞きたいとは思わなかった

 これ以上聞いていても特に得るものはないと判断したからだ

 そして何よりも、聞けば聞くほど心の底からえもいわれぬ不安が

 湧き上がってくるのを感じた

「(俺には理解できない事ばかりだ)」

 彼等と会話をしたところで、言っていることの全てが理解出来るとは

 到底思えなかった

 会話の中で気になる単語が一つあったが、それはこの世界では

 当たり前に使われている言葉なのだろう


 だが、それが一体どんな意味なのかまでは理解が出来なかった

 今の所判ったのは、少なくとも自分と彼等の間に大きな常識の

 隔たりがあることだけだ

 とにかく今は、情報が必要だった

 そして、情報を得る為に必要な物は自分の身を守る力だと『彼』は確信した

 幸いにも、まだ学生達は、こちらの存在には気づいてないようであった

 そう思った『彼』は、表情を引きつらせつつ、学生達に見つからないように

 急ぎ足でコンビニへと向かった

 しかし、その様子を自慢げに話していた男子生徒には気づかれていた

「今時、随分と珍しい服装をしている奴もいるんだなぁ」

 男子学生は不思議そうに呟く

 その言葉を聞いた3人が、一斉に男子学生の方に視線を向ける

 どうやら、先ほどの会話は一時中断のようだ

「誰が?」

 詩織と呼ばれた女子生徒が、自慢げに話していた男子生徒に尋ねた

 男子生徒は応えずに、眠そうに欠伸をした


 そんな学生達の横をずいぶんと奇妙なデザイン絵を施した

 大型トラックが通過して行った

 荷台部分に『三匹のペンギン』の絵が描かれている

 1匹は、日本の伝統衣装で祭などの際に着用する法被を着ている

 2匹目は、頭にお鍋を被り両手に包丁を持っていた

 最後の3匹目は、麦わら帽子を被りアロハシャツを着て

 黒いサングラスを掛けていた

 その右手に『ちくわ』を持ち、左手には電卓を持っている

『彼』は余裕が無いためか、気づく事はなかった



 だが、4人組の学生達はその車両に気づくと慌てて視線を外した

 どうやら、あのトラックは学生達にとってあまり良くない物であるようだ

 学生達が視線を逸らした後も、大型トラックは速度を落とす

 ことなく走り去っていく

「朝からやべぇの見たな」

 携帯ゲーム機で遊んでいる男子生徒が、大型トラックが

 視界から消え去った直後に呟く

 それに同意するかのように、残りの3人も首を縦に振る

「最近多いわよね、あの手のトラック」

 詩織と呼ばれた女子学生は、少し怯えたような声で話す

「あーいうトラックって確か『尚文露天商』の輸送車だったよな」

 携帯ゲーム機で遊んでいた男子生徒が思い出したように話す

「ああ、そうだな あの『露天商』は、『鬼獣討伐軍』からしたら

『鬼畜』な商売してる店だからな」

 自慢げに話していた男子生徒が、得意げな表情を浮かべながら相槌を打つ

「それを『露天商』で言ってみなさいよ? 物理的に消されてもいいの?」

 もう1人の女子生徒が、呆れた表情を浮かべて忠告した

 ―――『三匹のペンギン』のロゴマークを使っている『尚文露天商』に

『彼』は、これから否応なしに深く関わる事になるのであった

 ―――それは、偶然か必然か

 どちらにしても、運命の歯車は回り始めたのだ

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