第2話

「(幾ら何でも本物じゃないだろ)」

 僅かな常識のズレに気づかないまま、『彼』は目的のコンビニへ

 足早に歩いていく

 コンビニがあるのは大通りに面した場所であり、そこを

 抜ければすぐに到着できる

 数分後――『彼』はコンビニがある大通りを呆けたような貌で眺める事に……

 いつも通りの街並みが広がっているが、そこには普段の日常の

 風景はどこにも無くなっていた

「何だ、ここは!?」

『彼』の口から驚愕した言葉が思わず漏れる



 大通りを行き交う通行人の全てが、迷彩服と戦闘用ヘルメット着用していたからだ

 しかも、その貌は精力的で活き活きとしており、まるで戦場から帰還した

 兵士達のようであった

(どういうことだ?これは夢か?)

 この異常すぎる光景を目の当たりにして、彼は混乱するしかなかった

『彼』は、頬をつねるが痛みを感じる事からこれが現実である事を悟る

 通行人達の表情は、まるで死地を乗り越えた戦士のようにも見えた

 誰しもが鍛え上げられた肉体の持ち主ばかりである

 通行人達の全員が、手には自動小銃らしきものを持っており、そのどれもが

『彼』から見れば『本物』の様に見えた

 また、通行人の中にはまるで激戦を潜り抜けてきたかのように

 ボロボロになった野戦服を着用している者もいた

 中には頭部に包帯を巻いている者や、片腕を失っている通行人もいた

 そんな傷だらけの通行人は、仲間同士で肩を組んで歌を歌いながら通り過ぎる

『彼』の視界に飛び込んできた光景は、まるでテレビニュースや軍事映画などで

 見た中東や米軍基地内を彷彿させるような雰囲気であった

 戦争映画のワンシーンを切り取ったような光景だが、ベースとなっているのが

 日本のありふれた街並みだけに違和感しかない

 そんな非日常的な雰囲気に『彼』は、ただ圧倒された


 しかし、そんな状況でも、頭の中では冷静に思考する

「(一体、これはどういうことなんだ? 俺は夢でも見ているのか?

 何かの撮影現場か?それとも俺の知らない間に何かこの国であったのか?) 」

 この状況を理解する為に、彼は必死に頭を働かせる

 だが、いくら考えてみても答えなど出るわけが無い

 そもそも、このような事態に遭遇する事自体が想定外なのだ

 異常な光景をぼんやりと見つめていると、気がつけば先程感じた鼻腔に

 ツンと来るオイルが焼けるような臭いが漂ってくる

 その臭いに釣られて無意識に視線を向けるが、何かが燃えている様子は無かった

「(何なんだろう、この臭いは?)」

『彼』にはその『臭い』の原因が何のか、さっぱりとわからない

 臭いの正体を突き止めようとその発生源を探す為に視線を動かすが、その

 答えは得られる事は無く結局分からず仕舞いに終わった

「( とりあえずコンビニに行こう)」

 本当ならばそのまま家に帰るのが正しかったのかも知れなかったが、

 この時の『彼』の頭は混乱していて正常な判断ができなかったのだ

 しかし、『彼』の行動は結果的には正解だったと言える

 何故なら、この選択がこれから起こる出来事に対しての

 分岐点でもあったからだ



 ――通行人達が持ち歩いている銃器類に怯え、道路の隅っこをビクビクと

 しながら歩きそうこうしている内に目的のコンビニストアが視界に入る

 すると、途端に今まで緊張していた身体が嘘のように解れていく

 安堵感が全身を包み込み、強張っていた表情が緩んでいく

 コンビニという存在は彼にとっては心強い味方でもあり、今の自分の状況を

 唯一理解してくれる唯一の希望でもある

 だから、コンビニにさえ辿り着ければ何とかなると思い込んでいた

 何時もと変わらない店構えと駐車場の光景を見た途端に、

『彼』は少しだけ安堵した

 だが、そこで無慈悲にも『彼』は、『非日常』な光景を目撃する

 コンビニエンスストアの駐車場には、明らかに『彼』の知っている

 日常には絶対に存在しないであろう物体が鎮座されていた

 それは――どうみても軍用車両にしか見えない物が駐車していたのである

 この『時点』の『彼』は知る由もなく、よくテレビニュースで視る

 軍用車両程度しか思ってはいなかったが、それはアメリカ軍向けに

 生産されたストライカー装甲車であった

 そんな代物をコンビニの駐車場に停車していることなど、『彼』の

『日常』では決してなく、こんな代物の傍で買い物をする度胸のある

 客など居るはずもなかった

 だが、『彼』以外の通行人達はそんな事を気にせずチラリと見る事もなく、

 平然とした表情で足早にコンビニに入っていく

 ついでに大通りを走っている車両の中には、同じような軍用車両が

何台か存在していた

 まるで、この場が日常の風景の一部であるかの様に……



 走行している車両の中には、コンビニエンスストアの駐車場している軍用車両とは

 威圧感は少ないが、それでも自家用車として乗り回すには明らかに

 向かない車両が幾つも見受けられる

 その車両も、『彼』からすればテレビニュースやゲームなどで良く

 登場しているのを見た事があった

 それはアメリカ軍向けにAMゼネラルが製造した汎用四輪駆動車

 ハンヴィーである事は、 やはりこの時点では『彼』は知る事は無かった


 堂々と走っているハンヴィーの車両には、漫画・アニメ・ゲームなどに関連する

 キャラクターやメーカーのロゴをかたどったステッカーを貼り付けたり、ペイント

 したりしている痛車が走っていた


 逆に何も飾りっけのない無骨で武骨で荒々しい雰囲気のハンヴィーも

見受けられた

 共通している事は、運転者達の表情は誰もが精悍な面構えをしており、また、

 迷彩服を着用している事だった

 また、助手席に座っている者は、無線機らしきものを手に持っていたり、あるいは

 タブレット端末らしきものを弄っている者もいる

 中には、自動小銃らしきものを持っている者もいた

 ――この時になって初めて、この異常な光景を目にした瞬間に『彼』は薄々だが

 今どんな状況に置かれているかを察しはじめていた






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