この世界は一体何と闘っているんだ?~キャットフードとドックフードは臨時レーション以外有り得ない世界である

大介丸

第1話

『彼』は軽く欠伸をしながら、一人で住んでいる安アパートから出ると

 貌を少し顰めた

「何だ? この焦げ臭い匂い……」

 昨夜、寝る前に換気扇を回しておいたので、部屋の空気が淀んでいる事は

 殆ど無い筈なのだが、何故か異臭を感じたのだ

 まるでオイルが燃えたような独特な香りであり、鼻腔の奥を刺激する

 それが何処から来ているのかが気になった『彼』は周囲を見渡す

 ―だが、その原因となるようなものは周囲には見当たらない……

 どうやら自分の勘違いだったようだ

 気味が悪くはあったが、今は時間が無いので放置するしかない

 早く行かないと遅刻してしまうからだ

 そう思い、すっきりとしない気分を抱えたまま朝食を購入するため、コンビニへと

 足早に歩き出す

 いつも通りの日常風景が広がっている街並み その通りにある

 コンビニエンスストアに向かう為に歩いている最中に、 ふとした違和感を覚えた




(……え?)

 思わず目を疑う光景がそこにあった

 視界に見えたのは、 道を歩く人々の姿があるのだが明らかに異質だった

 一番の違いを挙げるとするならばすれ違う幾人もの通行人の服装と貌つきだろう

 誰もが身に纏っている衣服が『迷彩服』で、面構えがまるで人が変わったかの様な

 精悍さと威圧感を放っていたのだ

「……一体これはなんだ?」

『彼』は困惑した表情を浮かべつつ、無意識に頭を掻く

 しかし、どれだけ考えようと答えなど出る筈も無く、仕方無しに彼は

 いつも通りに行動する事に決めた

「何か近所で、ミリタリー仮装パーティでもあるのか?」

『彼』は、珍しそうな視線をすれ違う幾人もの通行人達に向けながら歩いていく

 少なくとも『彼』が知っている日常では、『迷彩服』を通行人が着用して、戦闘用

 ヘルメットを 被って堂々と街中を歩く様なイベントは無いはずだ

 仮に有ったとしても、自衛隊のパレードくらいしか心当たりが無かった

 しかも、今いる場所は都市部である

 



 こんな所でそんな事をすれば、たちまち大騒ぎになるだろう

 通り過ぎる通行人には、貌に迷彩用のペイントを塗ってたり、目元を隠すために

 ゴーグルを装着していたり、フェイスマスクで貌を隠している者もいたりする

(もしかして、ここ最近ニュースになっているテロリストなのか?)

 彼らを見て一番最初に思いついたのがそれだった

 しかもやけにすれ違う全ての通行人は、着こなしが様で手慣れた雰囲気を感じさせる

『彼』にすれば、突然映画の撮影現場に紛れ込んだ様な、もしくは米軍基地に

 紛れ込んでしまったような錯覚さえ覚えてしまう

 だが、ここは日本である事に変わりは無く、間違いなく現実であった

 また、通行人の誰しもが服の上からも筋肉の盛り上がっており、その体格の

 良さから素人目でも只者で無い事がわかる

 それが余計に現実感が無く感じてしまわせる要因の一つになっていた

 そして、この異常な状況にも関わらず平然と歩いている自分も

 おかしいのではないかと思う


「(幾ら仮装パーティでも、自動小銃らしきものまで持ち歩くのは凝りすぎだろ?)」

『彼』は通行人達に怪しげな視線を送りつつ、小声で呟きながら

 苦笑するしかなかった

 それだけでも、まるで戦争映画のワンシーンを見ているような気分になる

 しかも、その誰もが自信に満ちた貌付きをしておりとても

 演技とは思えない

 まるで本当に戦争をしている兵士の様に堂々とした面構えだ

 そんな通行人の貌を見る度に、『彼』は不安になってくる

 先ほどから感じる違和感の正体が何なのか全く掴めないからだ

 明らかに異常な状況なのに、何故か危機感を感じない・・・いや、

 むしろ何処か心地よい

 だが、それはそれで不味いと頭の中で警鐘が

 鳴り響いているのが分かる

 このままだと取り返しがつかない事になる予感がするからだ

 何故なら、自分が見ている風景が日常とはかけ離れているためだ



『彼』は頸を傾げながら、すれ違う通行人達が手に持っている銃器に視線を向けた

 その銃器類が『本物』だと言う可能性は、最初から『彼』の頭には

 浮かんでいない

 あまりにも非現実的過ぎて、脳が理解する事を拒絶したからだ

 ここが『彼』の知っている日本だと、本物の銃だとしたら

 こんなにも平和な雰囲気になるわけが無く、まず日本国内で本物だったとしても

 街中でそんな物を堂々と携行していたら、即座に警察に通報されて

 職務質問されるだろう

 そもそも、日本の法律では一般人が簡単に銃を持つ事は出来ない

「(戦争真っ最中の紛争地帯か、どこかの国の軍隊内部じゃあるまいし)」

『彼』はそう思った…… だが、何だか嫌な予感しかしなかった

 何か良くない事が起こる前兆のように思えてならない それが何かまでは分からないが……


 この時、『彼』は『二つ』ほど見逃していた事があった

 ―――一つは、すれ違う迷彩服を着込んだ通行人達の全員が、ベルトに携帯無線機を

 ぶら下げてる事に気付いていなかった事

 それが『ただの飾り』ではなく、イヤホンマイクが付属している

通信機器だという事に

 そして、もう一つは……

 すれ違う通行人の殆どが『彼』の服装を見て、『何か珍しそうな表情』を

 一瞬だけ浮かべていた事である

『彼』がこの二つの事柄から導き出される事実を認識できた瞬間から、この

『世界線』での生活がはじまる




 




 一

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