第3話 別れ、そして…

「お世話になりました、リミナさん」


 モトコは颯太そうたとともに深々と頭を下げた。

 翌日の昼下がり、颯太とともに船で日本へ行くことになったモトコを、店の入り口先でリミナは見送っていた。

 旅費や船賃は、颯太そうたがある程度はお金を持っていたので問題はなかった。話によると、持っていた小型自動車の運転免許が役立ち、日本に引き揚げ後、すぐに運転手の仕事を得て短期間でモトコを探すための旅費を稼ぐことができたらしい。

 リミナには少々の名残惜しさはあったが、かといってこれ以上モトコを引き留める理由もなかった。


「貴女と過ごした毎日は楽しかったわよ、モトコ……これランチよ。お2人で仲良く食べてね」

 リミナは、サンドイッチが入った小さなバスケットをモトコに渡すと、同時に小さく薄い木箱のようなものも手渡した。


「これは?」

「貴女と私の、永遠の友情の証よ」


 中を開けると、ひとふりの柳刃包丁が綺麗に納められていた。キッチンで使われていたものだ。


「よろしいのですか? 大切なものだと……」

「いいのよ。2本あるのだから、1本は私。そして1本はぜひモトコに持っていて欲しいのよ」

 リミナは感慨深そうに言うと、2人の元を離れる。後部座席にモトコを乗せたバイクは、力強いエンジン音を轟かせ、幸ある未来へ続くであろう道を駆け出していった。



 リミナは今日もカウンター越しに腰掛けて、ぼーっと外を眺めている。

 磨き上げられた硝子越しには、夕焼けに紅く焼かれた西部特有の荒れた大地が映っている。いつもと変わらぬ、しかしリミナにとっては安堵感のある光景。


 カラン……


「いらっしゃいー……!?」


 雑貨屋の小さな扉が開かれ、ひとりの男性の姿を認めた瞬間、リミナはカウンターを飛び越えて、男性のもとへ駆け出していた――

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