第6話 家族

 結局、気まずい雰囲気はなくなったものの話す話題が無いので、駅に着くまで終始無言になってしまった。


 「ここまでで良いよ。どうせここから一駅だし、駅からも近いから」

 「分かりました。じゃあ、変質者とか最近出没するらしいですから気をつけて下さいね」


 まぁ、空手で全国を経験している先輩に変なことをしようとする奴がいるならそいつはただで済むことはないはずだ。


 「安心してして、襲ってくるような奴がいたら延髄に一発決めてやるから」


 前言撤回、先輩に変なことをしようとした奴は殺される。確実に。


「ほどほどにして下さいね。先輩に怪我でもされたら困りますか」

「どうして?」

「か、彼氏、だからです」


 は、恥ずかしいぃぃ、何を口走っているんだ俺は、何をかっこつけてるんだよ。

 ヤバい、先輩に嫌われてしまう。どうしよう。

 見たくないと思いつつも顔を上げると先輩と目があった。

 そして先輩は口元を綻ばせながら、俺の目をしっかり見て


 「そう、なら私は彼女らしく青山君に心配をかけないように気をつけるね」


 そう言いながら頬を赤く染め笑う先輩を見ながら、俺はこの白河先輩を好きになって良かったと思った。

 しかし、そう思うとともにこうも思ってしまう。

 何故先輩は俺の告白をOKしたのだろうかと、先輩は真正面から告白してくれた事が嬉しかったからと言っていたが、学校内では大人気の先輩ことだから、かなりの数の告白受けてきたはずだ。

 その中に僕みたいに真正面から告白した人だっていたって可笑しくない。

 なのに、何故先輩は僕の告白をOKしてくれたのか、僕の中でその疑問は膨らんでいく。

 しかし、そんなことを先輩に聞くのも気が引けるから、聞くことができない。てか、僕にそんなことを聞く勇気がない。

 僕はそんな考えをやめ、現実に戻る。


 「はい。ではまた明日」

 「うん、じゃあね」


 僕は先輩が改札を通り、先輩の背中が見えなくなるのを確認すると僕も自分の家に帰ることにする前にアニメを見るときのつまみをコンビニに買いに行くしよう。


 コンビニに入ると店員の気怠そうな声が聞こえたが、僕はその声に聞き覚えがあったのでその店員の方を向くと


 「あっ」

 「お!」


 むこうも僕に気づいたようで、少し驚きめの声を上げる。



 「お前がこの時間帯にコンビニに来るなんて珍しいな」

 「別に何時来たっていいだろ」


 顔を合わせた瞬間絡んできたこいつは坂本 裕也は僕の数少ない友人その2だ。

 少し焼けた肌で身長は175くらい、しかも顔は童顔で友達思いの空気をよく読む奴と、桐谷とはまた違った意味で女子にモテる奴だ。

 こんな、むかつく要素たっぷりの奴なのに友人でいられるのは、ひとえに坂本が良い性格してるくせに努力が嫌いという腐った根性をしているからだろう。


 「で、お前はなんで珍しくこんなコンビニに来たんだ?」

 「普通に帰ってアニメ見るときようのつまみを買いに来ただけ」

 「普通の理由過ぎてつまらん」

 「普通で悪かったな」


 そう、こういう良いのか酷いのか分からない性格だからこそ、友達でいられるのだろう。


 「俺はてっきり、白川先輩と帰るために遅くまで学校に残ってると思ったんだけどな」

 「なんだ、坂本も知ってたのか?」

 「もちろん知ってるさ。むしろ学校で知らないやつなんて中々いないだろ」

 「昨日の今日で早すぎるだろ」


 情報社会、怖すぎる。


 「先輩とはさっきまで一緒だったよ。今日は部活が休みだったんでね」


  隠す必要もないので正直に話した。


 「良いねぇ、羨ましいよ、彼女がいて」


 坂本が何か言ってるが、僕からしたら嫌味にしか聞こえない。


 「そんなこと言うならお前も作れよ。お前なら告白する女子ぐらいいるだろ」

 「いや、俺は………まだそういうのは良いかな、今は他人の幸せを見てるよ」


 そう言う坂本の声はいつもより低く、いつも浮かべている笑顔も一瞬消えた気がした。

 まぁ坂本にも色々あるのだろう。僕が関与することではないから深くは詮索しないけどな。


 「そう思うなら、飲み物の1つでも奢ってくれよ。それだけで僕は幸せになるからな」

 「安い幸せだな」

 「小さな幸せを享受出来るほど苦労人なものでね」

 「学校でトップクラスの人気を持つ人を彼女にしてる二次オタ野郎が何を言ってるんだよ」


 お互いに軽く笑ったあと、流石にこれ以上バイトの邪魔をするのは悪いと思い、商品棚からスナック菓子と飲み物をレジに持っていき会計を済ませてた。

 まぁ、よくよく考えたら先に絡んで来たのは坂本の方からなのだから僕が気を使う必要もなかったと思ったが別に良いか、済んだことだし。


 「じゃあな、バイト頑張れよ」

 「おう!今度白川先輩を紹介してくれよ」

 「白川先輩にお前の毒牙にかけられると困るんで止めとくよ」

 「白川先輩を幸せにする自信あるぜ」

 「それは僕の役目だから安心しろ」

 「かっこいいねぇ」

 「だろ」


 正直、坂本とかにはこんなこと言えるが先輩に聞かれたら死にたくなってしまう。

 そんな死にたくなるような会話を終えて僕はコンビニをあとにした。


 家に着いた僕は、自分の部屋に入るなりスムーズな流れで机に横にカバンを置き、コンビニで買ってきた飲み物とスナック菓子を机の上に置くと同時に左手でリモコンを操作し、部屋に設置されたテレビを点けて、椅子に座った。


 「よし、完璧だ!」


 これでアニメを見る体制は出来た。

 僕にとってアニメ、 漫画は酸素だ。例え、彼女が出来たとしても、これだけは譲れない。

 アニメを見る体制の出来た僕を動かすことは何人たりともできないぞ!ハハハ


 (こんな姿を先輩に見られたら確実に失望され振られるだろうなぁ)


 僕にとってオタク活動は生きていくうえで必要な要素だ。

 アニメや漫画を取り上げられたら生きていける気がしないし、三日間アニメを見れない環境に置かれたら、発狂すると思う。

 しかし、初めて出来た彼女に失望されるのはやだ。

 でも、このまま、ずっとばれないという自信もない。

 本当に手詰まり状態だ。・・・・・まぁ、良いか、とりあえずこんなこと気にするのは止めよう。

 僕が先輩に気づかれないように、細心の注意を払って行動すれば良いだけだし、今のところバレる気配もないし、気にするだけ無駄なんだから、考えるのを止めよう。

 そんなことを気にするくらいなら、目の前のアニメ鑑賞に全神経を注いで観ることとしよう。


 結局、二時間の間集中してアニメを観るあまり完全に時間を忘れていた。

 既に時刻は八時半になっていたので、夕食を食べるためにリビングに降りた。

 

 リビングに降りると、テレビを観ている母親がいた。


 「母さん。夕飯何?」

 「テーブルの上に置いてあるものよ」


 母親に言われてテーブルの上に目を向けると、アジの開きに味噌汁、それにサラダが置いてあった。我家の夕食ながら、何て質素なメニューなんだろうか。

 まぁ部屋で少しお菓子を食べたから、油っこいものが出てきても食べきれる自信がなかったので、僕としてありがたい限りだ。


 「母さんも柚希も食べ終わった後はあんただけだから、早く食べちゃいなさい」

 「父さんは?」

 「残業で遅くなりそうだがら今夜は要らないってさ」

 「最近残業多いね」

 「まぁ父さんも忙しいのよ。察しなさい」

 「そうするよ」


 こんなことを言ってはいるが、基本的に周りに興味を持たない僕は、自分の父親が何の仕事をしているのかすら知らないので、察しなさいと、言われても察することなど出来るはずがない、が、ここは流れで察することが出来てる風を装うことにした。

 ちなみに柚希というのは僕の二つ下の妹で今は中学二年の女子中学生だ。

 しかし、普段家の中であまり話さないし、食事も我が家では、基本的に遅くなりすぎない程度に好きなタイミングで食べるので、家族全員で食べることなど中々無いので、最近じゃあ、家の中なのに顔を会わす回数も少なくなっている気がする。

 まぁ、元々柚希はオタクである僕のことを嫌悪している感じなので、仕方ないとは少し淋しくも思う。

 先輩も僕がオタクであることを知ったら、妹のように僕のことを嫌悪するのだろうか?それとも……

 駄目駄目、そんなことを考えるのはやめようとさっき決めたばかりではないか。

そう思い僕はは顔を軽くふり、そんな考えを忘れることにし、夕食を食べるため、席に座った。


 「ご馳走さまでした」


 夕食を食べ終わると、すぐに自室に戻った。

 ベッドの上に寝っころがり、一息ついてると、机の上に置いておいたスマホが鳴った。

 その音楽はメールが届いたときように設定しておいた音楽のため、メールが届いたんだと、すぐに分かったが、誰からのメールなのかが全く見当がつかなかった。

 自慢ではないが、暗黒時代を過ごしてきた中学時代はそんなに友達も多くなかったし、高校に入ってからなど、1度も連絡を取っていないため、今さらメールをしてくるなど思いもしなかった。

 僕はスマホを取り、メールを確認すると、


 (えっ?) 


 それは意外人物であり、今の僕の悩みの人でもある。白川先輩からだった。

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