第3話 本性

 僕は嬉しさのあまり叫びながら帰り、やっと家に着いた。ちなみに、帰り道の途中いきなり叫んだりしたせいで歩いてる人に、中々痛く冷たい目で見られたが、そんなことすらどうでもよくなるほど、僕のテンションは上がっていた。

 今までアニメの名シーンなどを見てテンションが上がったりはあった。

 しかし、まさかこの重度のオタクである僕が三次元のことでここまでテンションが上がるなど思ってもみなかった。というより初めてののことだ。

 そもそも三次元の女に興味など持ったことなどないのだから当たり前だ。


 だからこそ、どうしたらいいのか分からなくなってる。実際のところ、告白が成功するとは思ってなかった。真っ正面から自分の気持ちをを伝えよう!と決めておいてなんだが、心の中の大部分では振られると思っていた。

 なので、恋人が出来たらどういうことをすればいいのか、何をしたらはいいのか、どう付き合っていけばいいのかさっぱり分からん。


 そんなことを考えながら僕はベットの上で悶えていた………とりあえずラノベでも読んで落ち着こう。



 目が覚めると朝になっていた、どうやらラノベを読んでてそのまま寝落ちしたみたいだ。

 しばらくすると頭も寝覚め始めるに連れて昨日のことを思い出していきなんだか気恥ずかしくなってきたが、これ以上また考え出すと時間がないので切り替えるためにシャワーを浴びることにした。


 朝食を済ませ、学校にむかって歩いていると、後ろから桐谷が声をかけてきた。


 「よぉ!直樹おはよ~」

 「お~」


 昨日のことで頭がいっぱいの僕は適当に返したが、次の桐谷の台詞に耳を疑った。


 「お前、昨日の告白どうだったよ」

 「っっっ!!」


 今こいつは何と言った?‘昨日の告白はどうだった?’何故こいつが知ってる?

 確かにこいつは昨日の会話で僕が白川先輩に好意を抱いてることを察した、が、いつ告白するかなんて言った覚えがない。

 それに昨日告白しようと思ったのはこいつと別れた後だ。こいつが知ることはないはずだ。

 目覚めている全脳細胞を使い思考させている僕の答えは意外なほどすぐに分かった。


 「昨日、空手部のやつから聞いたんだけど、練習場のまえで告白したんだろ?」


 なるほど、確かにあの告白は空手部の人達に見られていたし、告白した相手があの白川先輩だ。話題性も充分だろう。

 しかし、昨日の告白のことが既に広がってるとか、怖すぎだろ情報社会。


「で、どうだったんだよ。告白は、お前が生きてかえって来てるってことは……まさか成功したのか?」

「あぁ成功したよ」


 軽くそう言うと、桐谷はまるで犯罪者を見るような目で見てきた。


「うそ、だろ。あの白川先輩がこんな2次元しか愛せない消費型萌え豚オタクの告白をOKするなんて!お前、どんな弱味を握ったんだ!」


 これはもはや名誉毀損だ。今こいつをそのイケメンフェイスが腫れるほど殴っても罪に問われない気がする。

 とりあえずみぞに1発入れた。


「普通に真っ正面から告白しただけだよ。それ以外はなにもしていない」


 悶える桐谷を無視して僕は学校にむかう。


 学校に着くと、上履きに履き替えようと下駄箱に向かうと、僕の下駄箱の前に誰かいた。

 角度的に顔は見えないが、美しい黒髪に色白な肌を持った人……まさか!

 僕は急いでその人に近付くと


「おはようございます。青山くん」


 そう言ってこっちに振り向くその姿に僕は心臓の鼓動が少し早くなってしまった。


「お、おはようございます。白川先輩」

「昨日は告白ありがとうね、嬉しかったよ」

「こ、こちらこそありがとうございます」


 これを聞き、本当に僕はあの白川先輩の恋人になったんだという実感がわいてきた。


「そ、そういえば。今日朝早くからどうしたんですか?」

「実はこれを青山くんに渡すために来たの」


 そう言い白川先輩はポケットから1枚の紙を取りだし、僕に渡してきた。

 僕は紙を受け取ると、紙を開き内容を確認すると、紙にはメールアドレスが書いてあった。


「あの、先輩、これって?もしかして」

「そう、私のメールアドレスだよ。せっかく恋人同士になったんだからメールアドレスぐらい交換しといた方が良いかなと思ってね」

「ありがとうございます!!そしてすみません、こういうのは彼氏である僕からするべきだったのに」


 僕は先輩に申し訳なくなり少し俯いてしまった。


「気にしないで良いよ。これくらい」


 そう言って軽く笑った先輩はまるで女神のようだ。この人は崇拝するべき存在だ! そんなことを考えていると顔が緩みそうになったので、すぐに思考を切り替えた。


「ありがとうございます。あっ!僕もメールアドレス渡しておきますね」


 僕は鞄からペンと紙を取りだし自分のメールアドレスを書き、先輩に渡した。


「ありがとうね。青山くん。そろそろ朝練の時間だから行くね」

「あっ、はい!部活頑張って下さい!」


 僕がそう言うと先輩は僕に優しい笑みを浮かべることで肯定してくれた。

 そして、今まで2次元に全てを捧げてきた僕からしたらその笑みはあまりにも眩しかった。


「あっ!そうだ、もうひとつ言っておくことがあったんだ」


 先の笑みで緩みかけた僕の顔をに先輩の顔が近付いてきた。僕は自分でも顔が赤くなって行くのを感じた。

 そして先輩の顔が僕の耳辺りに来たところでさすがに気恥ずかしくなり、僕は顔を引こうとすると。



 「浮気しちゃあだめよ」


 

 

よくありそうな台詞だったが、氷のように冷たく言われたその言葉は僕の耳の奥まで染み渡り、僕の体な自由を奪い、心臓を手で握られたように感じ、周りの気温まで下がったように錯覚した。

 僕はかろうじて動いた目で先輩のことを見ると、先輩は笑みを浮かべていた。

 しかし、さっきの女神のような笑みではなく、まるで隣で死神わらっているのではないかと思えるくらいに、冷たく笑みを浮かべていた。

 誰だ、誰なんだこの人は?

 僕はさっきの笑みとの、あまりにもあるギャップの差に別人なのではないかと疑ってしまった。

 しばらくすると先輩は顔を離した。


「じゃあ。部活行ってくるね!」


 そこにはさっきのの悪魔のような笑みではなく、最初の崇拝すべき女神の笑みがあった。


「ああ、うん、行ってらっしゃい」


 かろうじて、喉の奥からその言葉を出せた。


 先輩が部活に行った後、僕はいまだに残る冷たい余韻を感じながら思ってしまった。


 女神の笑みを浮かべた先輩と悪魔のような笑みを浮かべた先輩、本当の先輩はいったいどっちなんだ。


 僕は下駄箱であった一連のことを 思い出しながら教室まで足を運んでいた。

 あの悪魔のような笑みを浮かべた白川先輩はなんだったのか、そして、女神の笑みをする白川先輩と悪魔の笑みをする白川先輩、どっちが白川先輩の本性なのか、ずっと考えているが答えが出ない。

 教室ついて中に入ると、すぐに桐谷に絡まれた。


「よお!朝からラブラブでしたなぁ」


 どうやら朝の白川先輩とのやり取りを見られていたようだ。


「朝から白川先輩と何を話していたんだ?なぁ、教えてくれよ」


 このままメアドを交換していたなど言ったら、中々面倒なことになると思ったので、無視し、自分の席で愛読書であるラノベを読むことにした。桐谷も何も聞き出せそうにないと思ったのか、諦めて自分の席で顔を伏せて寝ていた。


「あの、青山くん!」


 しばらくラノベを読んでいると、誰かから声をかけられた。このクラスの人間で僕に声をかける人間が桐谷以外にいたか? と思いながら顔を上げると知ってる顔があった。


「昨日は本当にありがとうございました」


 黒咲さんだった。


「いやいや、本当に気にしないでよ、黒咲さん。最初にぶつかってノートを落としてしまったのは僕の方なんだし、ノート運びを手伝うくらい当たり前のことだよ」

「そうですか、じゃ、じゃあ今度!」


 キーン、コン、カーンコン


「はーい!席に座って~」


黒咲さんが何かいいかけた瞬間、予鈴が鳴り先生が入ってきた。


「黒咲さん今なんていいかけたの?」

「いえ!その…なんでもないです!」


 そう言うと黒咲さんは急いで自分の席に戻った。本当になんて言おうとしたんだろ?


 昼休みになるといつも通り僕は購買にパンを買いに行こうとして教室を出ると、


「青山くん!」


 なんと白川先輩がいた。てか、四階に教室があるはずの白川先輩が2階のこの教室の前に既にいるってどうゆうこと!?さすがに速すぎない?!これはもはや1種のホラーだ。


「青山くん、一緒にお昼食べない?」


 目の前のホラーな事態について考えてると白川先輩がお昼を誘ってきた。まぁ確かに恋人同士なんだし、一緒にお昼を食べるのは当たり前かぁ、ラノベ(参考書)にもそういうシーン多いしな。


「ええ、良いですよ。でも僕、お弁当持ってきてないんで、先に購買行ってきます!何処かで待っていて下さい。」


 そう言って僕は購買へ行こうとすると、


「青山くん、その!」


 先輩に呼び止められた僕は、先輩の方を見ると、あの白川先輩が頬を赤く染めながら、上目遣いで僕の方を見ていた。なにこれ、めっちゃヤバイ、今にもこの女神に対する崇拝の言葉を叫びそうになったが、ギリギリのところで理性が勝った。


「これ、食べてくれませんか?!」


 そう言い先輩は包みに包まれた長方形の形の箱を僕に渡してきた。

 ま、まさかこれは、


「あの、これってもしかして」

「うん、お弁当だよ。青山くんに食べて欲しくて、今日、朝早く起きて作ったの」


 やはり弁当、しかも手作り弁当……だと!

手作り弁当なんて物を現実で見ることになるなんて、あんなのラノベや漫画だけのフィクションの物だけだと思っていた、その上、あの白川先輩が作った手作り弁当なんて!

 僕は今、第三者にここはフィクションの世界だよ、と言われてもなんら疑問を持たない。

 

 「あっありがとうございます!白川先輩!」

 「どういたしまして、喜んでくれて良かったわ。とりあえず座れる場所に行きましょう」

 「はい!」


 先輩は屋上でお弁当を食べることにした。


 「いただきます!」

 「はい、召し上がれ」


 お弁当の開けて見るとそこには素晴らしい光景があった。肉と野菜のバランスが適度にとれており、野菜はさまざまな色の野菜を使うことによって見映えを良くしており、サイドを置かれたリンゴはウサギ型に切られている。1種の芸術作品と呼べる品物であった。こんなお弁当を食える俺はなんて幸せなんだ!

 そして見た目も素晴らしかったが、味はそれ以上に素晴らしい!てか、これを作った白川先輩マジすげぇ!さすが、唯一僕が3次元で愛することが出来た人、全てが完璧過ぎるぜ!


 「青山くん、美味しい?」

 「はい!最高です!」


 即答だった。


 「また食べたい?」

 「はい!食べたいです!」

 「ずっと食べたい?」

 「ずっと食べたいくらい美味しいです!」


 そう言うと先輩は少し僕を近付き顔を伏せた。その時背中に悪寒が走った。


 「じゃあ、青山くんの為に毎日作ってあげる。毎日毎日毎日毎日、青山くんの為に、青山くんに対する私の愛を込めて込めて込めて込めて全てを込めて作ってあげる。」

 「せ、先輩?」


 僕はあの下駄箱の時と同じ寒気を感じた。まるで銃を突きつけられてるかのような恐怖を感じた。顔は見えなくて分からないが、おそらく、下駄箱の時のような悪魔の笑みをしているに違いない。僕はそう確信した。


 「だから青山くんも他の女からお弁当を貰ったり、奢ってもらったり、デートしたり、浮気したりしては駄目だよ。私が一生、青山くんを愛し続けてあげる。だから、青山くんを私を愛し続けてね!もしも青山くんが他の女から愛を貰ったりしたら、私のこの愛をどうやってぶつけたら良いのか分からなくなっちゃうからね」


 その悪魔のように静かで暗い声の言葉を聞き、僕は下駄箱の一連のことを思い出して分かった。分かったてしまった。完全無欠の女神のようなこの先輩の本当のことを。

 白川先輩は完全に心が病んでる、それでいて以上なほどの愛を持ってる、つまり白川先輩の本性は …………ヤンデレだ!

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