第87夜 6・15 骨一本になったあなたを
6・15 骨一本になったあなたを
時おり、どうやって生まれてきたのかわからないものが、僕の中に生まれることがある。僕はそれを書き留めてみる。だが、書き留めて文字にしてみてもなお、それがどこから来たか、わからない。そういうものが、時々出来る。
今日詠んだひとつの短歌も、そういうものの類だ。それは短歌と呼べるかもわからない、音さえも整わない一行詩に近い。現代短歌を名乗れば立派だが、僕は短歌の本流を学んだことがない。本流を学ばずに、前衛は名乗れない。構築を知らずに、破壊は謳えない。
月明かり、骨一本になったあなたを 腕枕する今日もまた夜
それがどこからどうして出来たか、詠んだ僕自身にはわからない。若き日に、友への純真な抒情詩を詠んでいた朔太郎が、突如『月に吠える』を生んだ。それと似たようなものだろうか。だが彼には西洋詩のルーツがある。僕の短歌には、それがない。このみなし子を、どうしたら良いだろう。無論こんなもの、捨ててしまえばいいのだが、どうしてかこれを捨てるのが惜しい。もし僕に犀星のような友がいたら、友よ、どうか健康であれと、跋文のひとつも貰えただろうか。まあ、こんな陳腐な一首に、目をかけてくれる友など、僕にはいない。僕はまたこんなものをつくって、ひとり悦に入っているしかない。
単に気の迷いでしかないものを、どうして捨てられないでいるから、僕はまだこんななんだ。(了)
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