第32夜 4・21 雨は人を詩人にする。夏の夕暮れと同じくらいに。
4・21 雨は人を詩人にする。夏の夕暮れと同じくらいに。
雨が降ったので、詩を書いた。気付けばずいぶん詩を書いていなかった。いや、書けていなかった。雨が降ったから、久しぶりに詩を書けた。
雨は人を詩人にする。夏の夕暮れと同じくらいに。
柾木はそんな気取った一節で始める、もうひとつ散文詩を書こうと思った。だが書こうという時にはもう詩は遠く去っていて、無理に紡ぐならそれはまたゴミになる。しょせん、柾木は詩人ではないのだ。雨か夕暮れの時ぐらいしか、詩に辿りつけない凡人でしかない。
彼の久しぶりに書いた詩は、また一人にしか読めない抒情詩だった。このご時世に、抒情詩なんて、私小説と同じくらい読まれない。いや、それよりももっと、読まれない。だから、読者は一人でいいと思った。
抒情詩とはすべて、ただ一人に宛てた不器用な手紙である。
それは空想と、彼の真実と、生活の名残りが雨に流されて、空中に浮かんだ無価値な詩だった。彼は「無価値な抒情詩」と名付けた。それで詩のことは忘れることにした。
今日も柾木は短歌を作った。抽象化は彼の病気だった。もうひとつの病気は、情慾だった。彼はそれを書き捨てることにした。
愛と血と赤の狂気の我ならん切った手首の青い静脈
祟られて思い尽くまま殴り書く歌の本質とは呪詛なりけり
毒虫と成れる我が身の肺の吐く腐った息で粉塵爆発
我だけは差別主義者であらまほし打ち殺せかし!打ち殺せかし!
百人の名もない他人に好かれるよりも、たったひとりに愛されたいんだ
(了)
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