第22夜 4・11 青年の遠い夢の話

4・11 青年の遠い夢の話


 昨日は、書けなかった。ついに、書かない日を作ってしまった。だが、それを取り戻すことはしない。書かない日だって、その日の結果だ。今日は今日の、いま思うことを書く。今日は、またベランダで書いている。また私小説になりそうだ。

 柾木は、田を作る為に北へ行った。故あって、ある米農家に縁ができた。詩を作りつつ田を作れ。柾木は、現代のミヤザワケンジになろうと思った。青年特有の誇大妄想だった。

 柾木はひとつの夢を持った。賢治のように、生きるという夢。羅須地人協会の復活。高原で少年たちと暮らす夢。それはこんな大きな夢だ。

 柾木は、学校を作ろうと思った。天憬地人協会と名付けた。天に憬れる、地の人の会。「彼方へ」の目をした、少年の国。訪れた村には、かつて小学校だった廃校があった。柾木は、そこを未来の拠点にしようと思った。

 詩を作りつつ田を作れ。それが唯一の理念だった。少年たちと暮らしながら、自給自足の生活を送る。夏には田を作り、冬には詩を作る。文学、音楽、美術、博物。幾何学、哲学、鉱物、天文。その村は、星がよく澄んでいた。だから、星と詩の谷にしようと思った。高原の藝術的生活に生きる、少年たちの新しき村。柾木はそこの主人になりたかった。そこで物語や少年の詩を書いて、敬愛する賢治のように生きる。

 それは、青年の夢に過ぎなかった。若すぎる、無謀な青い夢だった。それでも彼には、本気の夢だった。彼は、そのために生きようと誓った。

 夢は、星のない東京のベランダで育った。(了)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る