第2話「日常⑵」
その場に立ち止まり、通り過ぎて行く家族の姿を眺めながら俺は、今ではもう思い出す事も難しくなってきた記憶の断片を一つ一つ、拾い上げていく。
拾い上げていったそれらは今の自分には目が眩む程に輝いて見えて、その眩しさに当てられてか、自身の目頭に熱が帯びていくのをまるで他人事のように感じていた。
目頭に帯びた熱が外に溢れ出さないようにと、ぐっと力を込める。気付けば三人の家族の姿は街の喧騒に溶け込んだかのように消えていた。
俺は立ち止めていた足を再び前へと踏み出し、また歩き出す。心無しか、見れもしない筈の自分の背中が先程よりも丸く、小さくなっているように思えた。
ふと、左胸から断続的な振動が生じているのに気付いた。
俺は慌ててコートの胸ポケットに手を突っ込み、振動を起こしている原因の物を取り出す。
取り出したのは、使い始めてもう一年の経つ、小傷が目立ち始めた白色のスマートフォン。 ディスプレイには少し主張気味に大きく映る「部長」の文字。
それを見た俺は「ああ、またか」と、半ば諦めにも似た嫌な予感が胸を過ぎる。
小さなバイブ音が振動と同じリズムで響く。 二回、三回、四回。いつまで経っても鳴り止まない振動が掌に伝わるのを感じながら、このまま出ないでいようかなんて考えが浮かぶ。
だが実際、会社に戻れば嫌でも顔を見ることになる。現状、既に面倒くさい状況ではあるが、あとあともっと面倒くさくなっても困る。
俺は出たくない感情を必死に押さえ込み、少し呼吸を整えてから通話ボタンを押した。
「……はい、もしもし」
「あ、神崎くん〜? お疲れ様ぁ〜」
心のどこかで何かの間違いであってくれと思っていたのだが、電話越しに聴こえる甲高い声と鼻につく間延びした語尾に、俺の浅はかな希望が無惨に崩れていく。
雲外蒼天!! 蒼天の霹靂 @soutenn
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