第8話

 少年はどこかで歪んだ。大切なものを手に入れて、大切なものを守るため、大切なものを幸せにするため、少年は歪んだ。


 友達と馬鹿騒ぎすることがなくなった。

 心から笑うことが少なくなった。

 優しく見守るようになった。

 滅多にふざけなくなった。

 泣かなくなった。





 自分の気持ちに気づかないフリをするようになった。

 心と固く握りすぎたこぶしの痛みを無視するようになった。

 自分の幸せがわからなくなった。






 俺は唯と愁に幸せになって欲しい。

 あの二人の幸せが俺の幸せだ。




 じゃあ俺は、俺はどうなんだ。







 分かってたさ。だからって。だからって言えるわけがない。


 親友の屈託のないあの笑顔の前で。


 それに答える、頬を赤く染めたあの笑顔の前で。



 傷つくだけだ。


 皆傷ついて、罪悪感だけを与える。


 そんなの誰の幸せだよ。


 だから俺のこの思いはなかった。


 存在しなかった。



 また、笑顔を見て、傷ついて、悲しくなって、喜んで、笑って、咽び泣いて、嫉妬して、自分のことを縛って暮らす、暖かい日々に戻る。


 その日々に、自分は居るのだろうか。明日から、いやもうこの後から。あの日々の中に。





 必要ではなくなるのか。それも仕方ないのかもしれない。こんな男に居られても困るだろう。



 あの二人なら、きっと幸せになれる。

 俺がいなくても。


 ちきしょう。アホ愁。


 そこは、唯の隣はお前に会うまで、俺の居場所だったんだよ。




 出会えて嬉しくて、出会いたくなかったよ。

 お前ら二人には。







 クソッタレの親友、クソッタレの愛しき人よ。




 結局俺は諦める。




 だからお前らは諦めるなよ。




 俺を足蹴にしたんだ。諦めることだけは許さない。



 嗚呼、ちきしょう。本当に愛してる。


 頭で分かってても感情を抑えられない。



 俺は明日からまた、嘘つきになれるかな。

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