第4話
愛輝は高校へ向かう前にいつも通り、すぐそこの唯の家に立ち寄っていた。
いつも通りの時間に彼女は出てきた。
「おはよー。相変わらず早いねえ」
長いあくびをしながら唯は言った。
今日は少し寝坊したようだ。寝癖が凄いことなっている。それを見て、思わず吹き出す。
「おはよう。寝るのが早いからね。今日、結構ギリギリに起きたろ」
「え!なんで分かったの!」
唯は慌てふためいている。
だが肝心の寝癖には気付かない。
「寝癖は寝坊しても直しなよ、まあ寝坊する唯が悪いけどね」
笑っている愛輝と反対に唯は膨れながら手で寝癖を直そうとしている。胸ポケットに入った櫛に愛輝は気付き、完全にツボに入る。
やはり彼女はまだどこか抜けている。
教室に着いたころには唯の寝癖は直った。
直らないのは愛輝が笑いすぎたせいで、ナナメになった唯の機嫌だけだった。唯は頬杖をついて頬を膨らませる。ご立腹だ。そんな彼女の隣の自分の席で愛輝は謝る。
「ごめんごめん、笑いすぎた。」
愛輝は唯に謝るが顔を見てまた笑う。
そしてまた、唯が膨れる。
先程からこの繰り返しだ。
>
「おっはよー!……何してんの」
愁は教室に入るなり見た異様な光景に疑問を抱いた。
好きな人が頬杖をつきながら怒っているのは分かる。わかりやすく膨れてる。かわいい。
だが、好きな人の幼馴染みが肩を揉み、謝りながらずっと笑っているのが理解できない。
そして好きな人にめっちゃ見られてるのも気になる。いや、嬉しいけどね。でもあれ睨んでね?
そんな葛藤もつゆ知らず、愛輝は返事をした。
「おー愁!おはよ。助けてよー。唯がずっと怒ってんの。」
ダメだこいつ。本人の前で言うことじゃないし、まだ笑ってる。
「お前謝る気あるの?ってか昨日は俺で今日はお前かよ。」
「何したの」
普段は逆なのになー。珍しい。
てか、やっぱりあれ睨んでるよね。いやーでも全然怖くないんだよね。睨みになってないもん。例えるならあれペットショップの子犬が吠える時みたいな顔だよ。いや犬は歯剥き出すからあっちのが怖いな。
といつまでも葛藤している愁を、これまた笑いながら見ていた愛輝は事情を説明しようとした。
「いや、今朝さー…」
「だめ!!!」
振り向きながら唯が叫ぶ。
鈍く大きな音がする。
葛藤する男は驚き、笑い続けた男は顎に頭突きを貰った。
声にならない痛みで180近い男が床を転がり回る。
唯は唯で頭をおさえて机に突っ伏し痛そうにする。
愁は唯に駆け寄る。その時愛輝の背中を踏むが、恋する乙女(男)は気にもしない。
「大丈夫か?!」
頭をおさえていた唯の華奢な腕をそっと掴みあげ、ぶつけた所を見る。大事には至っていないようだ。とりあえず、ほっとする。
そっとぶつけた所を撫でる。
「良かった...」
「はよー…」
珍しく早く登校してきた、楓は目の前の光景にフリーズする。
真っ赤な顔で頭を撫でられる親友とその親友が好きな馬鹿がイケメン顔で親友を撫でている。
そして……転がり回る好きな人。
神様、これ私の好きな人なんだけど。
1日は始まったばかりなのに、もうすでに色濃い。これが彼らの日常。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます