第3話

 中学校に入学し、クラスが分かれたことを機に、唯は少し、大人びた。


 まず、愛輝のことを愛ちゃんと呼ばなくなった。そして、愛輝と遊ぶことが減り、クラスの女子と遊ぶことが増えた。また、自己主張もしっかりとできるようになり、愛輝が心配したような孤立は無かった。


 この唯の変化に愛輝は悲しむことはなく、むしろ喜んだ。唯の成長は、妹か、娘の成長のように嬉しく、微笑ましかった。


 唯と少し疎遠になっていた時、愁と出会った。彼ははっきり言うと馬鹿で、やかましい。でも楽しくて、退屈の無い友人だった。


 二、三年生の時は偶然にも3人同じクラスとなり、少し疎遠だった唯とも以前のように遊ぶようになり、今度は3人で遊ぶことが増えた。


 高校を受験する時、初めて知ったのだが、愁は見た目や性格に反し、頭は良かった。(それまでテストはもちろんあったが怖くて愛輝は聞けなかった。)


 愛輝は友人が行くからという理由で、高校を決めた2人に軽く説教したが、結局3人同じ高校を受験し、合格した。


 その後無事に中学校を卒業し、何事もなく青春の半分が幕を閉じた。


 と上手く行けば良かったのだが、実は少し困った事が一つだけあった。


 合格発表の日、誰かが落ちたらどうする気なのか愛輝は全く分からなかったが、3人で高校へ見に行った。


 張り出される瞬間から見たいという2人の要望で、公開五分前からいたのだが、もうすでに人の壁が出来上がっており、身長の低い唯は見えなかったが、175cmを超える2人は頭越しにみることはできた。唯もだいぶ2人に遅れたが自分の受験番号を見つけられた。


 愛輝は1人、少し離れたベンチに座って、塾の友人と合格祝いに写真を撮りに行った二人を待っていた。


 運が良いのか悪いのか、まだ2人はその場にいなかった。


 愛機は1人、人の壁と身長の低さのせいで前が見えず、飛び跳ねている女生徒を見つけた。最初は面白おかしく見ていたが、段々可哀想になり、声をかけてみた。


「大丈夫?」


 返事は意外なものだった。


「うるせーよ!身長低いからって馬鹿にしてんのか!」


 つい可笑しくて笑ってしまう。


「馬鹿にはしてないけど面白かったよー。」


「馬鹿にしてんじゃねーか!お前何なんだよ!」


「ごめんごめん。お詫びに見えるようにしてあげるからさ。」


 女生徒はキョトンとしている。先程までの怒りはどこかへ行ったようだ。


「はい、行っくよー」


 愛輝は彼女の腰を持ち上げる。


「えっ!ちょ!!馬鹿!降ろせよ!!」


 彼女は慌てふためく。残念ながら彼は女子の腰を持って上げることに抵抗のある思春期の男子には程遠かった。


「遠慮はいいから。ほら早く見ちゃいな。」


 彼女は割と分かりやすかった。顔を真っ赤にしてぶつくさ言いながら自分の番号を探した。


「あ、、、、、あった!!」


「やったーーーーー!!!!」


 彼女は愛輝に持たれてることも忘れて、全身で喜びを表現した。愛輝はそれが可笑しくて、つい、笑ってしまう。

 愛輝は彼女を降ろした。


「おめでとー。俺も合格したから高校で会うかもね」


 愛輝は唯にやるように彼女の頭を撫でた。


「ガキじゃねーんだよ!でもその、、、ありがと」


 噛みつきつつも礼儀正しい彼女に愛輝は微笑んだ。気のせいか、俯く彼女の顔が赤いように見えた。

 そして、2人がどうやら帰ってきたようだった。


「素直でよろしい。じゃ!」


 愛輝は歩いて2人のもとへ戻っていった。


「、、、おい!名前は!」


 彼女の問いかけに素直に答える。


「橘愛輝、クラスが一緒になるといいね」


「、、、おう!」



 この時、この女生徒が愛輝に恋したこと、この時の女生徒が水本 楓だと言うことに愛輝はまだ気付かない。

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