厠考

「ワールドカップってあるじゃないですか」

「何、急に。まああるわね」

「昔知人が、ワールドカップの略称、WCを見てすごい興奮してたんですよ」

「は? 何で?」

「『トイレだー!!』って」

「く」

「く?」

「下らない……」

「ですよね」

「……でも何でトイレが『W.C.』?」

「えぇと、ちょっと待って下さい……あぁ、『Water Closet』って事らしいです。直訳すれば『水の小部屋』ってとこですか」

「へぇへぇへぇ」

「3へぇ頂きました! 30円下さい!」

「やるかバカ」

「え~ん」

「しかしよくよく考えれば、トイレの別名って、実はすごい多い?」

「調べてみますか? ……あぁ、すごい数です。日本語で100以上あるとか無いとか」

「すごいなトイレ」

かわや

「あぁ、それは良く聞くな。何で厠なんだ?」

「昔は川の上に建物(=屋)建てて、その上から……」

「まじか」

「らしいです。で川の上にある屋って事で『かわや』だとか。諸説紛々」

「衝撃だな、ご先祖達」

はばかり」

「『あたしゃちょいとはばかりに……』なんて、落語でありそうだわね。人目を憚る場所だからかな」

雪隠せっちん

「『鬼の雪隠せっちん』で聞いた事あるわ。トイレって意味だったのか」

「何です? それ」

「奈良県にある……遺跡? 観光名所? 元は古墳の蓋だったんだが、色々あって崖下に転がってそのままの大岩よ」

「何ですか、それ」

「いや、本当そのまんま。因みに『鬼のまないた』とセット。これマメ知識ね」

「はぁ。多分二度と聞く事はないです」

「くそう」

「化粧室」

「まあ普通だわね。てか順番考えろよ」

手水ちょうず

「まあニュアンスは分かるけど、トイレって感じはしないねぇ」

「お花摘み」

「これは隠語でしょ? いや、それ考えると化粧室とかも隠語か。便所じゃあまりにダイレクトだもんね」

「カセットレコーダー」

「は?」

「カセットレコーダーってのもあるそうです」

「その心は?」

「どちらも『おといれ(音入れ)』でしょう」

「ダジャレかよっ!」

「横浜」

「はぁ?」

「市外局番が(045)だからだそうです」

「おし……くっだらねぇなぁ!!」

「後は三番とか、ナカムラとか色々あるみたいです」

「まぁ人前で『ちょいと便所に用足しに』とは言いにくいもんね。友達同士ならともかく、上司や客目の前にそんな会話してたら常識疑われるわ」

「だからこそ、分からないように次々言葉を開発するのかも知れませんね……全く、人間って奴は……」

「何目線よ」

「ところで先輩」

「な、何、急に改まって」

「い、い、一緒にトイレ行きませんか? さっきからも、も、も、もう、漏れそうで……!」

「知るかっ!行くかっ!さっさと一人で行けぇ!!」

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