みまちがい

神光寺かをり

末席

神川合戦

 街道が砂煙に包まれていた。

 東から微風が吹いている。湿気た土泥が生臭く臭ってきた。


 水位の低い神川のなか浜松はままつ勢の兵士がひしめいている。

 しきった先に、僅かばかりのしろかたの兵が待ち構えていた。

 川を越えた浜松勢が、それに襲いかかる。

 浜松勢の中で、身分のある者の自身指物であろうか、何かがキラキラと光を弾いている。

 急に城方が引いた。

 吊られるようにして、浜松勢の先陣たちがその背後を追いかけて西へ……あまふち城へ突進しはじめる。川の中のもの達も、ズルズルとその後について行く。

 浜松勢の陣形は細長く変形した。


 この様子を、激戦地の神川岸から西北西――尼ヶ淵の城から見れば東北東に位置するそめ台地の染ヶ馬場から、立派なたいと立派な手槍を持った若者が見下ろしていた。

 身に着けているの赤糸おどしどうまるよろいはちがねだけだ。足軽かと思われる程に身軽な作りだった。


 東の戦線から西の城に目を向けた若者は、更に西の方を見た。

 びょうのような山並みがあった。ぞうさんだ。山中の山城にうえすぎの旗印が見える。

 報告では、その兵数は百に満たないという。その百も、みな五十を過ぎた老兵ばかりだそうな。

 そして、上杉の兵はそこから動くそぶりがない。旗印だけが微かに揺れている。


 それで充分だった。


『越後からが来ていると言うことが浜松勢に――とくがわ勢に知れれば良い』


 のである。


 大柄な若者はニッと笑った。


連絡つなぎを。敵方に気取られるな」


 控えていた伝令のものが無言で頷き、駆け出す。


「よし、掛かるぞ」


 若者は手槍をい込んで馬に飛び乗り、馬腹を蹴った。

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