革命のヒロイン、ピザを配達する
大気圏外に達すると、ただちにワープに入る。こんな時でも三十分以内という鉄則は侵せない。
何もない亜空間をトラックで漂いながら珠子は考えていた。これは久しぶりにやりがいを感じる取り組みだ。やりがいというのは大事なことだ。使命と言い換えてもいい。ピザの配達は、自分にとって生活の糧以外の意味はないはずだった。しかしピザに情熱をかけ、そのためにレジスタンスを起こすことまでしようとしている人物に出会ったことによって、自分の普段していることは意味のないことではないのかもしれないと思い始めている。そのレジスタンスに心ならずも加担することになったわけだが、嫌だと思うよりも興奮している自分がいる。非現実的なほど大量のピザ、国会の通信ラインのハッキング、極秘のミッション――少女時代に憧れていた冒険小説のようなことが起ころうとしている。しかも主役は自分なのだ。二十八歳、フリーター、薄給、彼氏なし、それらの状況がなんだというのだ? 遠い惑星の一法律の改善要求など、確かに地球の人間からしたら小さなことかもしれないが、自分はそれに対する使命を帯びてこのトラックを運転している、それがどれほど素晴らしく誇らしいことか。
アルファ・ケンタウリのスペース・ポートに着陸。今度はさすがに簡単には通してもらえないだろうと腹をくくっていたが、驚くほどあっさりと入星ゲートは開いた。運転席の珠子が不思議に思っていると、カーウィンドウからのぞいている係員が小声でささやいた。
「〈ピザーヤ〉さんですね。あなたがたの企ては密かにネット上で拡散されています。市民はみんな知っていますよ。健闘を祈ります」
珠子は感動に打ち震えながらトラックを発進させた。ケチな店長の方針でカーナビはついていなかったので、仕方なく通行人に国会議事堂の場所を尋ねると、彼女(おそらく)からもまた激励の言葉をかけられた。そういえば街中を行く人々の目がみな、この地球のおんぼろトラックに注がれているようだ。それも熱い、期待のこもったまなざしだ。珠子はいよいよ気を引き締めてハンドルを握った。
たどり着いた場所は、ピンク色の粘液に覆われているところをのぞけば、地球の日本の国会議事堂に似ていなくもない建物だった。ホワイトハウスにもタージマハルにも似ているし、バーミヤンの寺院と言われればそんな気もする。どれも行ったことはないが。珠子はぐるりと一周してようやく物品の搬入口を見つけ、トラックを横付けした。
「ご注文のランチです」
インターフォンに告げると大勢の係員たちが現れて、なんの疑問も表明せずに大量のピザの紙箱を運んで行った。最後の一箱が運び出されると同時に珠子は急いでトラックを発進させる。次いで向かったのは、エプルレヴィススリーのアパートだった。
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