彼のアパートに入ってしまう
珠子は男性のひとり暮らしの部屋に入るのは初めてだったが、そもそもこの粘液生物が男性かもわからないので、さほどドキドキしない自分に気がついた。とはいえ、別にドキドキしたかったわけでもない。
さて、それからの数時間を費やして、ふたりが編み出した作戦は「国会議事堂ピザ宅配作戦」というものだった。パンギャラクティック・インターネットの情報によると、この惑星の国会の慣例として、開会前に全員でランチをとるというものがあるらしい。その場に大量のピザを宅配し、地球製だと伝えずに国会議員に食べさせようと言う作戦だった。吉と出るか凶と出るかはわからないが、一種のパフォーマンスとしてやってみる価値はありそうだった。エプルレヴィススリーの仕事はシステムエンジニアなので、ネット上及び非ネット上の友人たちの伝手を頼り、ランチの配達にピザを割り込ませることは可能そうだった。となると、問題はピザそのものである。
「一旦地球に帰るわ。店長に頼んでなんとかしてみる」
「よろしく頼むよ。みんな君らのピザを待ってる」
そう言われるとやりがいのある珠子だった。
出星はスムーズだった。宇宙バイクでワープをし、ほぼ一日ぶりに懐かしい地元のピザ店に帰還した。
「どこに行ってたんだ! ま……まさかとは思うが、配達で三十分を過ぎたんじゃないだろうな?」頭にきた店長がパニック状態に陥るのを苦労の末なだめ、事情を説明する。少々意外だったことには、店長は一も二もなく賛成した。
「それは絶対やるべきだ。アルファ・ケンタウリは一番の上客だから。それにうちのピザがそこまで愛されてるなんて嬉しいじゃないか」
というわけで、夜を徹して八百枚のピザの解凍が行われた。また、そのどさくさにまぎれて千二百円の経費が請求され、珠子は見事勝ち取ることに成功した。
朝になり、珠子と店長の目の下に隈ができ、ピザは完成した。建物中に所狭しと置かれた八百枚のピザを見て珠子が呆然としているうちに、店長が外に出てまた戻ってきた。そして珠子に何かを手渡した。
「トラックの鍵だ」
「うちにそんなものがあったんですか」
「〈ピザーラ〉のキャッチフレーズその二。ご注文は一枚から無限大まで!」
珠子は出発した。ただし今度は店前の駐車場から。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます