私の父は一寸法師です。

村ののあ

私の父は一寸法師です。

突然ですが、私の父は一寸法師です。


一寸法師というと、あの昔話に出てくる可愛らしくも凛々しい「あの一寸法師」をイメージする方もいらっしゃると思います。

でも私の父は「あの一寸法師」ではありません。そもそも、「あの一寸法師」は昔話の最後に、打ち出の小槌で身長は六尺(今で言うと180cmくらい)の長身になってお話が終わっていたはずです。


遺伝、という言葉をご存知でしょうか。

打ち出の小槌がどんなものだったのかについてはわかりませんが、とにかく打ち出の小槌は今で言うとDNAまで変えることはできなかったのです。その後可愛らしいお姫様と結婚した一寸法師ですが、生まれる子どもは皆数センチ単位の小さな、とても小さな子どもばかり。


当時は遺伝なんてわかりませんから、やはり一寸法師には呪いやまじないのたぐいがかけられていたのか、と宮中では大騒ぎになったそうです。でも、一寸法師は鬼を退治した功労者としてかなり出世していましたから、権力で口封じをしていたようです。


しかし、栄華は永くは続きません。初代一寸法師の死後、結局一族は戦乱を避けて都を去ることになります。その後、人里離れたところで暮らしていた――はずでした。


私の父は一寸法師のくせに、都会に出てきて、一族に代々受け継がれてきた持ち前の人懐っこさとイイトコだけ持っていくヒーロー補正をふんだんに発揮し、夢見がちなひとりの少女のハートを見事射止めます。


それが、私の母です。


私の母は「普通サイズの人間」でしたが、カワイイモノには目がない人で、一寸法師と会った時から「運命みたいなものを感じた」そうです(私にはよくわかりませんが)。


そうして生まれた一人娘が、今これを書いている私です。


運が良かったのか悪かったのか、私は父親の体質を受け継がず、すくすくと成長できました。私がまだ幼いころには、私がお父さんを飲み込んだり潰したりしないよう、細心の注意が払われていたそうです。


そうして成長した今、私にも夫がいます。今の夫と結婚する時は、父も最初は反対していたのですが、最後はついに夫の熱意をくみとり、立派に成長してくれてよかった、とテーブルの上で涙をぽろぽろ流す父の姿を見て、私も思わずもらい泣きしてしまいました。


今、私のお腹には新しい命が宿っています。


妊娠8ヶ月にして、妊娠しているかどうか疑わしいほど、ぽっこりとすらしていないお腹。でも、私にはわかるのです。小さな小さないのちが、もうすぐこの世に産まれようとしていることが。


隔世遺伝。


きっとお父さん――いえ、おじいちゃんは、喜ぶんじゃないかな、と思います。

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私の父は一寸法師です。 村ののあ @noah_p

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