#9和解
#9ヴァルトス城、王の私室
エフィメラ「愛は、過去のものになるわ。いずれ誰しもが、老いて亡くなり、人々の記憶からこぼれ落ちていくのよ」
フォーンス王「聞きたくない。わたしは……ルシフィンダを愛している、今でも」
エフィメラ「お育ちはそもそも、あたしの母などとは比べ物にならないというのに、なぜ母を愛したの?」
フォーンス王「そうだな……あのとき、周囲の反対を押し切っていればとも思ったが、鳥は自由でいてこそ空を飛べる。彼女の自由さに、惹かれたのだ」
エフィメラ「あたしの母は、幼い子を飢えさせるような人ではなかった。どういう意味か、おわかりでしょう? 一座にあたしを預けて逝ったわ。さようなら、二度とお会いしないわ。ヴァルトスの王様」
フォーンス王「は……メス狼は山に帰るがいい。それともしおらしく別れのキスでもしてくれるのか」
エフィメラ「未練くさいな(呆れて)……あっ!(キスされてしまう)」
フォーンス王「愚かな娘よ。金銀財宝はいらんのか?(抱きしめて)」
音声:「エフィメラの「セリフ中」にナイフを構える音」
エフィメラ「(振りほどいて)言ったでしょ。(音声)あたしは花形スター。望めばパトロンからいくらでもしぼりとれるわ。それに食べられもしない財宝なんて邪魔なだけよ」
フォーンス王「このわたしに刃を向けるとは……娘、それはローザの血だ。憶えておくがいい」
エフィメラ「バラにトゲ……褒め言葉ね。そんなに、この顔が気に入って?」
フォーンス王「戯言(ざれごと)ではない、その気性はわがローザ族のものだ」
エフィメラ「勝手に決めつけないで欲しいわ。王様の気まぐれにつきあう気もないし、王族に列(つら)なる夢を見ているわけでもない」
フォーンス王「不思議だ。わたしより、なにも持っていないはずのおまえの方が、ずっと幸せそうに見える。なぜだ?」
エフィメラ「知らないわ。だけど、あなたには金銀財宝より、ずっと大切にすべきものがある。それともフォンテ姫の不幸をお望み?」
フォーンス王「わたしが野卑(やひ)な身分の男なら、おまえをどこまででも追って、この手に捕まえるというのに……」
エフィメラ「あなたは充分、野卑な王様よ。だけど、責任があるから追ってはこない。愛したものと、愛してくれるものたちへの責任が。実際、この国は豊かよ。それもあなたの手腕にかかっている。みんなが知っている」
フォーンス王「負けたよ。おまえの言うとおり。わたしはこの国の王。大事な愛娘もいる。おまえがそういうなら、わたしは今幸せなのだろう」
エフィメラ「聞いたでしょ? フォンテ姫様?」
音声:「微かな物音」
フォーンス王「なんだ……隠れていたのか。フォンテ……息災か?」
フォンテ姫「はい……」
フォーンス王「いい子だ(抱き上げる)」
フォンテ王女「でも、父上。わたくしはかくれていたのではありません。万事ひかえめに、終始口を閉じていただけです」
フォーンス王「かしこい言い訳だ」
フォンテ王女「言い訳などではありません!」
フォーンス王「ははは……」
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