#8ハプニング

#8同・舞台の上

エフィメラ「鏡よ、ヴァルトスの秘宝よ、わたくしは何者?」

鏡役(団員)「史上最初で最後の、ヴァルトスの偉大な女王になるお方」

フォーンス王「確かに、わが先祖のロザリウムの武力に倒されるまで、多くを従えた立派な女王だったらしいな」

フォンテ王女「父上、うるそうございます」

音声:「戴冠式の音楽」(厳かに)

司祭役「(厳かに)フォンテーヌ。ここに、そなたをヴァルトスの女王と認めます……」

音声:「ぱっと明かりが消える」「ざわめき」(不審、混乱を表す)

レベッカ「明かりが風で消えた。松明をもってきて」

エフィメラ「(静かな声で語り始める)鏡よ、母上の幸福について、おまえはどう答えたのです」

鏡役(ベンジャミン)「(アドリブに内心驚いて)えっと……この国の最後を見なくて済むことです」

エフィメラ「初産をむかえた母上は、どれほど心配したことでしょう。心労で倒れられたのも無理がない。このわたくしが女王になるなど、おこがましい」

音声:「ざわつく」

ベンジャミン「エフィメラは一体、なにをしているんだ?」

音声:「やっと松明にふたたび火がともされ、あたりは明るくなる」

エフィメラ「幸福な未来を導く光は、わたくしが所有すべきではない。フォンテ姫、舞台の上へ」

フォンテ王女「わかりました」

音声:「フォンテ王女が舞台に上がる」

エフィメラ「さあ、この鏡を」

フォンテ王女「これを!」

エフィメラ「(ほほえんで)さあ」

音声:「光が鏡に反射する音」

フォーンス王「なんだと……?(明らかに動揺して)あの鏡は、王家の鏡。この世で一つ、ルシフィンダに与えたもの……?」

音声:「ざわめき」

フォンテ王女「(鏡を精一杯高々と掲げて)こうして裏を見れば、送り主の名前が刻まれています。読み上げましょうか? 父上。わたくしも字が読めるんですのよ」

音声:「席を立つ音」(王が立腹したようすを表現)

フォーンス王「不愉快だ! 城へ帰る(青ざめて)」

音声:「ざわめき」

ベンジャミン「なにをしているの、王が席を立ったら、芝居は終わりよ。どうしてくれるわけ、エフィメラ」

エフィメラ「あたしがお詫びに上がるわ。どうせあのお方にとって、ようがあるのはあたしひとりだもの」

ベンジャミン「勝手に城へ行ったら、縛り首よ。よくても、もうこの場所で商売はできないわ」

エフィメラ「なんのために、王女を招いたと思っているの? 万事ぬかりはないわ。ね? フォンテ姫」

フォンテ王女「はい! 案内します……あの、一時でも冒険できて、楽しかった。今宵は呼んでくれてありがとう……この鏡のことなんですけれど」

エフィメラ「いいのよ、あげる。助けてくれたお礼よ。それに、あたしが持ってても、立派すぎるって言われるもの。一応、形見なんだけれどね」

フォンテ王女「やはり……あなたは、おねえ……さま?」

エフィメラ「側室になれる身分ではないわ。あらゆる意味でね」

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