#6王の苦悩

#6ヴァルトスの城・王の私室

フォーンス王「ルシフィンダ、そなたを失って、世界は色彩をなくした。そなたを愛し、それでも叶わなかったこの想いは、他のものでは埋められない。だが、皇太子であったときのわたしには、周りの者の言うことを聞くしかなかった……」

フォーンス王「他に誰を、何を愛すれば良かった? そなた以外を愛する方法など知らぬ。国外にまで出向いて、美しいと言われる娘をことごとく召し上げたが、心の底から満たされたことはなかった」

フォーンス王「ただひとりの慰めを得るまでは……それももう、昔のことだ」

音声:「微かな物音」

フォーンス王「来たか。こちらへ参れ」

フォンテ王女「あの母上にそっくりの女の人なら、城外へ逃れました」

フォーンス王「フォンテ、なぜそなたがここにいる?」

フォンテ王女「わたくしが、彼女のいましめを解きました。今頃は仲間のところへ帰っているでしょう」

フォーンス王「なぜそんなことを?」

フォンテ王女「父上は、わたくしの母上を慰みにし、真の愛情を注いではくださらなかった。これが証拠」

フォーンス王「その鏡は! それはおまえの母ラクスに与えたもの。どうしたのだ、一体」

フォンテ「……!」

音声:「鏡の砕ける音」

フォンテ王女「これは、王が正妃に贈る鏡。けれど、偽物です」

フォーンス王「どこでそのようなことを……誰に吹き込まれたのだ?」

フォンテ王女「それは、あの女の人の顔を見れば分かります。母上に面差しが似ている。そして、正妃の鏡を持っていた」

フォーンス王「ばかな! それでは、あの娘は……」

フォンテ王女「あとはご自分で確かめてくださいませ」

音声:「衣擦れの音、ちいさくなっていく」

フォーンス王「信じられぬ……」

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