凍った夏
湧きあがる雲。しんと静まりかえって、人の気配もなんにもない青。夏の空は恐ろしい。工事現場の人も言っていた。事故が起こるのはこんな時だって。
あたしは息をきらして、ようやくだらだら坂を登りつめた。
頂上だ。見晴らしがいい。
とても、いい景色だ。
あたしはここまでやって来た。
ギシギシいうのはあたしの心臓なのか?
崖の上は海のようにうねり、眼下に広がっているはずの町並みを屈折率の高い靄が覆い隠してしまう。皺だらけの和紙のせんさいな凸面鏡。
チッチッ。
千鳥よ。
そんなにわざと羽音を立てるものじゃない。
クガルマキチドリのかついできた麦藁の束をほぐして、あたしは大きな麦藁帽子を編みはじめる。あたしの両手はかじかんだように紫色で、指先は小刻みに震えている。
チッチッ。
ねえ、千鳥。
重い鎖を断ち切って、あたしといっしょに飛んでゆこうよ。
ちょっと待っていて。
一時間あれば麦藁帽子が編みあがる。
雲と雲のあいだの架け橋に止まって鳥が啼く。翼を開けば数百羽ぶん巨大な千鳥。嘴には、歯がある。
(舌のような桃色に染まった雲の縁がほつれてくる)
工事現場が崩壊する。
―――――
麦藁帽子をかぶった椅子。骸骨になりたい少女が坐っている。思い出の歯型のネックレスを胸に。
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