「僕たちは志願するんです」

 若いゾンビが言った。

「そいつはいいや」

「乾杯してくださいよ」

 肌は土気色で衣服は破れ、湿っていた。においはそんなにひどくなかったが、死体置き場で香料を飲まされたからではない。活動を再開すると、彼らの組成は死体とは別のものに変わる。一般の腐ってゆくばかりの死体とは異なり鉱物的な増殖さえもするらしい。

 徴兵所へ行けば一発合格はまちがいなし。なにしろ一度死んでいるので、滅多なことではくたばらない。

 それであらかじめ祝杯を上げようと、まあそんなわけだった。

「どうもね。僕たちはまだ死んでから日が浅いんで、死体でいることに慣れないんです」

 青黒く斑点の生じた顔に快活な笑顔をつくって一人が言うと、

「とても、じっと死んでなんかいられない」

「墓の中は退屈で」

「尻は冷たいし」

「戦争なら、なあ、そうだろ。戦争なら活動的で僕たちにぴったりだと思うんです」

「エンディミオンの軍はケープ・コッドに上陸したそうだよ」

 そう告げると、カウンターで彼らは気勢を上げる。

「ウラー!」

「乾杯!」

「戦果に」

「勝利に!」

 彼らが足を踏み鳴らすと、床を匍匐前進ほふくぜんしんするおやじゾンビが、ゴキブリのように空中に跳ね上がる。

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