墓参り



 十年来の馴染なじみの娼婦がいた。「あなただけに」と言って彼女がくれた安っぽい金のメダルは、実際には百三十四個あったが、もちろん、彼女が生涯に相手にした人数はもっとずっと多かった。彼女は死にのぞんで、客の中から厳選した、特に好きだった相手にだけメダルを渡したのだ。

 彼女が死んでしまった今、私は通いなれた街路ではなく、メダルを持って彼女の墓に行く。墓の重い石のふたをあけ、地下へ降りてゆくと、いつもひんやりとした待合室ほどの広さがある石室には、自動快楽販売機に姿を変えた彼女がいた。

 湿気を避けるためのプラスチックのおおいが開くと、内部の機械は剥き出しだ。機械は私を迎える椅子のような、しかし人間が坐るのではなく、人間に坐ろうとする椅子の形をしていた。

 私は迷わずコインを投入する。

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