第15話 空中

 右手と左手をもがくようにして、羽毛にしがみつく。

 ヒッチコックが羽ばたくたびに、風で体が持っていかれそうになる。

 斜めになった地上が、だんだんと遠ざかっていく。

 下を見たらだめだ。

 イーサン・○ントだ。

 インポッシブルだ。

 

「こらてめぇクロエッ!止まってるあいだに、ゆっくり乗れば良かっただろ!」

「悠長なことは言ってられんわい!見失う前にヒッチコック隊に追いつくんじゃ!」


 クロエは持っていた杖をヒッチコックに突き刺して、それにしがみついている。

 レイナはというと、ヒッチコックの頭の上に仁王立ちしている。


「クロエちゃんッ!追いつけるのか!?」

「限界までスピードを出すようにコントロールしておる!その代わり、今の間は魔法は使えんぞ!」

「分かった!追いついたら、私と師匠が全部撃ち落とす!」


 俺、勝手にカウントされてるなおいッ!?


「最後尾が見えたッ!」

「高度を上げるッ!上から叩き込むんじゃッ!」


 朝焼けの太陽で目がくらむ。

 空を登り、雲に突っ込む直前に、身体が水平になった。

 下を見れば、ヒッチコックの群れ。


「こっちを向け~~~~~~~~ッ!」


 レイナが両手で魔法自動弩ピタゴラスをかまえた。

 薄い緑色の光線が、下を飛ぶヒッチコックに目がけて伸びる。

 命中。

 爆発。


「ギィャォォォオオオッ!」

「ギァォォォォオオオッ!」


 爆発を避けたヒッチコックが、体を傾け、高度を下げる。

 落ちた、わけではない。

 ぐるりと回転し、旋回し、首をこちらに向けた。

 って首が…伸びたッ!?

 こっちに届くッ!?


「レイナッッ!」

「ちッッッ!」


 レイナが後方に回転しながら飛び、俺の横に着地した。

 首が鞭のようにしなり、宙を舞う。


「師匠ッ!迎撃ッ!」

「わぁってるッって!」


 左手で羽毛を掴み、右手でたいまつを出す。

 そのたいまつを全力でッ!

 と…どけッ!

 …ッ!

 当たったッ!?

 ていうか、貫通したッ!?


「さすがだな師匠ッ!」


 投擲力が半端じゃない。

 やっぱりこの身体、尋常じゃない。


「レイナ、アーサー、一匹、後ろにつかれたわいッ!今から振り切るから、しっかりつかまっとれよッ!」

「ギィエエエエエエエッ!」


 後ろから鳴き声ッ!

 …ッ!

 身体が前に持っていかれるッ!?

 減速ッ!?

 そんで、今度は身体が後ろにッ!?

 いや、下にッ!?

 この巨体で、宙がえりッ!?

 戦闘機じゃあるまいしッ!?


「いただきッ!」


 隣のレイナが、天地さかさまの状態で、足だけで身体を支えて、ボーガンを構えた。

 発射された光線が、俺たちを後ろをとっていたヒッチコックの頭に直撃し、そのまま落下した。


「よーやったッ!このまま、大将じゃッ!」

 

 前を見ると、三匹のヒッチコック。

 真ん中のやつは、巨大なんてもんじゃない。

 ジャンボジェット機みたいなでかさだ。


「師匠ッ!私があいつに飛び移るッ!」

「おいまてッ!そんなのできるわけないだろッ!振り落とされて、一貫の終わりだッ!」

「でかいやつは魔法自動弩ピタゴラスの火力では無理だッ!近距離戦でかたをつけるッ!」

「そんな無茶なッ!」

「レイナ、アーサー、前ッ!」


 二匹のヒッチコックが首をこちらに向ける。

 口を開けると、中から、卵ッ!?

 でかいッ!

 でかいッ卵がこっちに来るッ!?

 一個は、外れたッ…が!?

 もう一つは…ッ!


「ハァァァァァァァァァッ!」


 レイナが、両手を前にかまえ、腰を下ろした。


「破ッッッッッ!」


 人間ほどの大きさの卵を上に蹴り上げる。

 が、すぐにヒッチコックは第2、第3の卵をこちらに放り投げてくる。

 レイナの迎撃だけでは耐えられない。

 でかいやつをやらないと。

 

「こっちの番だッ!食らえッ!」


 たいまつを大将のヒッチコックに投げつけた。

 が、やつは大きく羽を動かし、風でたいまつを叩き落した。


「もう一発ッ!」


 今度のたいまつは、当たった。

 が、身体の一部分が燃え上がっただけ。

 圧倒的に火力が足らない。


 化け物めッッッ!


「でかいのが来るッ!掴まれッ! 」


 身体が横に傾く。

 乗っているヒッチコックのすぐ横を、波打つ巨大ヒッチコックの首が通り過ぎる。

 あんなのに当たったら、ひとたまりもない。

 前を見ると2体のヒッチコックが…いない。


「後ろを取られたわいッ!」

「このままだと、墜とされるッ!師匠、さっき言った方法しかッ!」

「…いや。方法はある」

「え」

「ひとつだけある。近接攻撃以外で、致命的なダメージを与える方法が!」


 俺の予想が正しければ!

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