第14話 調教

 以前森の中で聞いた、あの耳をつんざく鳴き声。

 その鳴き声が折り重なり、戦場に響く。


 「お姉さまッ!」


 血塗られた斧を持ったアンナが、こちらに気づいた。

 ウィンドリー小隊の兵士たちが数人、すぐに壁をつくり、アンナを守る。


「アンナッ!大丈夫かッ!?」

「ええ、今のところはッ!でもヒッチコックがッ!」


 紫色の光りの帯が頭上を通過した。 

 軌道が低い。

 光が伸び、ヒッチコック隊の中央にいるひときわ大きなやつに命中した。

 爆風で地面に倒れそうになる、が。


「あれでは無理じゃ」


 クロエが呟いたとおり、何事もなかったように飛び続ける。

 ヒッチコックが一斉に首を下に向け、高度を下げる。

 奴らの狙いは、ここか。


「総員、その場でしゃがめッ! 来るッ!」

「ギィアアアアアアアアッッッ!」

 

 レイナの指示の通り、その場にいた兵士たちが、盾をかざしてしゃがみこんだ。

 突風と共に、こちらに向かってくるヒッチコック隊。

 先頭の巨大ヒッチコックに一人の兵士が捕まり、くちばしではさまれ、体が真っ二つにちぎれた。

 ヒッチコック隊の突貫によって吹き飛ばされた魔物がこちらに向かって飛んでくる。

 魔物の残骸が壁になり、前が見えない。


「耐えろッ!」


 レイナの、指示とも悲鳴ともつかない声が聞こえた。

 鎧にぶつかる羽と魔物。

 しゃがみこみ、身体を丸め、過ぎ去るのをひたすらに待つ。

 三秒、五秒、十秒。

 …おさまった。

 首を上げると、ヒッチコック隊によって吹き飛ばされた魔物たちが倒れている。


「ウィンドリー小隊ッ!立てるものは私のもとに来いッ!アンナッ!」


 アンナが蹴り飛ばしたオークマンやゾンビの死体が宙を舞った。


「地上の魔物を任せるッ!」

「はい、お姉さまッ!」

「おい、レイナ、空中のやつを何とかしないと」

「分かってる!でも」


 過ぎ去ったヒッチコック隊が、大魔砲隊ミサイルマンの砲撃を避けながら、大きく弧を描いて旋回した。

 そして、もう一度こちらに向かって…。

 来ない!?

 首を上げて、高度を上げる。

 飛ぶ向きは東。

 あいつらどこに。

 

「まずい、まさか」


 声が詰まるレイナ。

 ああ、まさか、セント・ソクラテスに向かっているのか。

 

「ここで食い止めないとッッ!」


 でも、どうやって。


火球超弾フレイムストライクッ!」


 隣にいたクロエがそう叫ぶと、黄色い光が最後尾のヒッチコックに命中した。


「おい、クロエ、何やってるんだ!」

「アーサー、わしをおぶれ。そしてギリギリまでヒッチコックを引き付けろ」

「なんで!?」

「一匹、乗っ取るんじゃ」

「どういうことだ!?」

「クロエちゃん、動物調教テイムは動物相手なら可能だが、魔物には効かないッ!」

「大丈夫、わしに任せろ小僧どもッ!」


 クロエの魔法が被弾したヒッチコックは、態勢をくずしたが、すぐに立てなおし、大きく旋回した。


「来おったッ!」


 クロエが俺の肩に乗っかった。

 マジか。

 来るって。

 でかいって。

 怒ってるって。


「ギリギリじゃぞッ!」

「わぁーってるッ!」

「ギィヤァァァァァァァァァッッ!」


 ヒッチコックのくちの中が見えるくらいの距離まで、近づいた。


「早くッッッ!」

動物調教テイムッッ!」


 くちばしが体に擦れる寸前で、上に飛んだ。

 羽毛が体に当たるッ!

 もう一段飛べッ!

 …ッ!

 後ろを振り返ると、地面に不時着したヒッチコックが、首を上下に振っている。


「よくやった、アーサーッ! 乗っ取り成功じゃッ!」

「クロエちゃん、あれに乗れるのか?」

「うむ、20分くらいなら、わしの意のままに動かせる。あれでヒッチコック隊に追いつけるぞ」

「お姉さまッ! ここの魔物たちは、小隊の皆で何とかします! お姉さまは、アーサー様とクロエちゃんと一緒に!」

「分かったッ!ヒッチコックの操縦は任せたッ!」


 とんとん拍子に話が進んでるが、それって、おい。


「行くぞッ! 羽のどこかにつかまれよッ!」


 ヒッチコックがむくりと起き上がり、何度か羽ばたき、宙に浮いた。

 そして、方向を変え、こちらに向かって飛んできた。

 つかまれってッ!?

 もうちょっとゆっくり搭乗できねえの!?

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