第13話 激突

 爆音、叫び声、そして地鳴り。


「敵襲だッ! 敵襲ッ!」


 宿舎を出ると、鎧をガチャガチャと着こみながら、前線に向かう兵士であふれている。


「師匠ッ!」


 レイナがボーガンを片手に、息を切らせて走ってきた。


「ユニオンの魔王軍がここまで攻めてきやがったッ! 」

「どうするんだ?撤退するのか?」

「ああ、そうせざるを得ない! だが、ここで前線を押し返さないとダメだッ!アンナは既に戦っているッ!私たちもそこに合流しようッ!」

「お、おう、分かった。とりあえず…」


 乱雑に立てかけられた背丈ほどの槍を一本を取ろうとすると、クロエが俺の手を掴んだ。


「アーサー、ろくに使い方も分からん武器を持っていっても仕方ないじゃろ。そんなものいらんわい。お前にはたいまつがある」


 マジか。

 たしかに、槍なんて、突くくらいしかできないけども。

 

「行くぞッ! 師匠ッ!」


 レイナが走り出し、そのあとを必死について走る。

 あれほど、分厚い鎧を着こんでいるのに、早い。

 ついていくのがやっとだ。

 歩幅が小さいクロエはというと、器用に、小刻みに、岩をジャンプしながら、ついてくる。

 ニンジャかお前。


「アンナが率いるウィンドリー小隊が前線で戦っている。とにかく魔物の数が多いんだ。討伐体の本体が飲みこまれないように、前線で、可能な限り、多くの魔物を駆逐するッ!」


 走る俺たちの頭上を、紫色の光りの帯が通過し、遠くで爆発する。

 何度も。

 何度も。


「おい、クロエッ!魔界村の銃器ってどうなってんだ!?あれって砲弾じゃねえよな!?」

「銃器は全て魔法によって動いておる! タンクに魔法を発するために必要な"バクテリア"を充填して、それを機械で"圧縮"して放出する!」

「バクテリア!?」

「そうじゃ!魔族が体内で飼っている微生物じゃ!」


 爆発音、地鳴り、そして、魔物の断末魔の叫び声。


「師匠、そろそろ前線だッ!臨戦態勢に入ってくれッ! クロエちゃん、きみは…!」

「わしなら心配せんでもいいッ! これでもッ!」


 クロエは、右手に持っている杖をブンブンと振り回して、天にかざした。

 その杖が黄色く光る。


火球超弾フレイムストライクッ!」


 杖から光りの帯が空に向かって伸び、そこから拡散し、地平線の魔物の群れに向かって飛び、爆発した。


「魔女ッ子じゃからのッ!」


 おい、聞いていねえぞそんな属性ッ!?


「クロエちゃん、まさか…!? まあいいッ! 終わってからだッ!」


 一面、見渡す限りの棺から、次から次へと出てくるゾンビ。

 その回りには巨大な鎌をもった、死神。

 そして、棍棒を持った、人間の倍くらいの大きさのオークマン。


 ゾンビが飛びかかり、死神が鎌をふり、オークマンが棍棒で薙ぎ払うたびに、兵士たちの鎧が砕け、血が宙を舞う。


 くっそ、ここに突っ込むのかッ!?

 この群れにッ!?

 こんなバケモノどもの群れにッ!?


「アーサー、たいまつじゃッ!」


 ああ、もう畜生ッ!

 両手を素早く!

 出してッ!

 引いてッ!

 出したぜ、たいまつッ!


「師匠ッ!何かよくわからん武器だなッッッ!たッッッッのッッッッんだッッッ!」


 レイナは目の前のオークマンが棍棒を振り下ろすのを、ギリギリでかわし、その腕を足場にして、頭をがっちりつかみ、ぐるんと回した。


 ヴぁきィィィッ!


 180度回った首から、血が噴き出し、雨のように降りそそぐ。


 ああ、リアル○ルビル…。


 って、見てる場合じゃないッッ!

 俺の前にも死神が…3体ッ!

 全員もうふりかぶってるッ!?


「アーサーッ!飛ぶんじゃッ!」


 あ、やっばいッ!

 ジャンプッッッ!

 ギリギリかわ・・・せたッッ!

 そんで、このたいまつを下に叩き付ければッッ!


「ギィアアアアアアアアッッッ!」


 炎が巻きあがって、俺も燃えちまうッッッ!

 ここで後ろにッッッ!

 2段ジャンプッッッ!

 熱いッッッッ!

 でも、着地したッッ!

 と思ったらッッッ!

 前からオークマンが来てるッッ!


光球超弾エネジ―ボルトッ!」


 クロエの杖から放たれた光る刃が、かまいたちのように、目の前のオークを真っ二つに切り裂く。

 その切り裂かれたオークマンの肉片をかじりながら、こっちに襲いかかってくるゾンビの群れ。


 てめぇらとはいっぺん戦ってんだよッ!


 たいまつを2本、ゾンビに向かってぶん投げる。

 火がゾンビに引火し、さらに地面に火が飛び、一瞬で、火の海。


「師匠ッ、クロエちゃん、こっちだッ!アンナに合流するッ!」


 レイナが走る先に、巨大な斧を振り回すアンナ。

 そっちにッ、向かわないとッ!

 ッッッッッ!?

 急に、風が強くッ!?

 何だこの風ッ!?


「ギィエェェェェェェェェッッッッ!」


 空を見上げると、巨大な鳥の群れが、こちらに向かって、凄まじい速さで飛んできていた。

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