第8話 姉妹

「おのれ、オークマンッ! 魔物風情が神聖なセント・ソクラテス城に入り込もうなどッ!」

「ちょっと待て! 状況が全くわからんが、まず俺は魔物じゃないッ! 俺は人間だ!」

「黙れオークマンッ! 今時お前のような全身し○むらファッションの人間がいるかッ!」


 ナイフの切っ先がまっすぐに眉間に向かってくるのを腰を反って避けた…が、すぐさま太ももにローキックが入る。

 打撃が重いッ!

 思わず、床に転がって逃げる。


「ガッデーム!姿をあらわせ!」

「誤解だって、俺は人間だって! おい、クロエ、なんとか言えッ!」

「そうじゃ、こいつはダメ人間じゃ」

「ダメは余計だこらァッ!」


 何度も何度も顔に迫るナイフを、首を動かして避ける。


 ようやく、手を掴んだッ!


 と思ったら顔が近いッ!

 ガツンッッ!

 ッッッッッ!

 頭突きッッ!

 

「お姉さまッ!」


 今度は何!?

 また女!?


「お姉さま! ストップ! その人はオークマンじゃない!」

「止めるなアンナ、こいつはオークマンだ。 洗っていない犬の臭いがする」

「お姉さま、年頃の男は大抵そうよ」

「こんな男、我々の隊で見たことが無い」

「いいえよく見てお姉さま。ひげこそ生えていないけれど、わたくしたちのお師匠さまだわ」


 女が顔を近づけてくる。

 目を細めて、眉を下げ、こちらを見下すように。


「お前…」

「…」

「○mazonの配達か」

「違うわ」


 世界観をぶち壊すボケをかましやがって…。

 

 あとにやってきた女がこちらに近づいてくる。

 俺に馬乗りになっている女と同じく髪は薄い紫色で、腰の位置よりも長い。

 目は大きくて黒目がちで、星が中に入っているみたいにキラキラしている。


「アーサーさま、お待ちしておりました。こんなに若い姿で復活されて!」

「いや、まあ」

「お姉さま、ナイフはしまって」


 髪を左右で束ねた女が、立ち上がった。

 ジト目は相変わらず。


「ペドロに言われて駐屯地に来たんだ。二人は」

「復活されたから、記憶を失っておられるのでしたね。わたくしはアンナ、そして、姉のレイナです。わたくしたちはアーサーさまの弟子ですわ」

「俺が?」

「この男、本当に師匠なのか?」

「そうですわ、お姉さま。無駄に高い背、短い首、間の抜けた顔を良くご覧になってくださいな。見まごうことなくわたくしたちのお師匠さまですわ」

「そうか、私の勘違いだ。すまないな、師匠」


 失礼を通りこして清々しいなおい。


「わたくしも、姉も、隊の皆も、アーサーさまの帰還をお待ちしていました」


 とても、そんな歓迎を受けていないが。


「それもこれも、急を要するミッション、アーサーさまの復帰戦にぴったりの、ハードでデンジャラスなミッションがございますの。さあどうぞ、城の中へ」


 そういうと、アンナはこちらに手を差し出し、満面の笑みを浮かべた。

 

 姉のレイナ・フォン・ウィンドリー、そして、妹のアンナ・フォン・ウィンドリー。

 これが"セント・ソクラテスの爆弾姉妹"との出会い(再会?)である。

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