第９話 怪鳥
「というのがミッションの概略だ。よろしくな、アーサー」
「ちょ、待てよッッ!」
俺は必死にペドロを制したが、部屋にいる人間は皆拍手をしている。
『おめでとう』じゃねぇぞッッ!?
ウィンドリー姉妹に連れられ城に入り、セント・ソクラテス大隊の会議室がある部屋に入った俺とクロエ。
部屋の中央に長いテーブルが置かれ、その左右に10名ずつ、屈強な兵士たちが座っている。
奥の壁に貼られた巨大な地図を前に、大隊指揮官のペドロが弁を振るう…のだが。
「どうした英雄。何が不満か」
「待ってくれ。たしかに俺は昔、一騎当千の英雄だったのかもしれない。でも、復活したばかりだし、以前の記憶は無いんだ。身体だってどれだけ動くのか見当もつかない。急に敵の大将を仕留めてこいと言われても無茶だ」
「おんぬし一人じゃないぞい。ウィンドリー姉妹が率いる小隊と一緒に突貫してくれれば良い」
ペドロから聞かされたミッションはこうだ。
目的は怪鳥ヒッチコック軍に占領された隣町ユニオンの奪還。
明日セント・ソクラテスを出発し、一泊野営。
明後日の早朝にユニオンに攻め入る。
まずは、大隊の本体がユニオン市街でヒッチコック軍を引き付ける。
想定される魔物の数はおよそ３万。
構成はゾンビ・死神・オークマン・食人植物など。
市街戦で魔物と交戦して数を減らし、ユニオン城に巣食う大将直属のヒッチコック隊を呼び寄せる。
ヒッチコック隊がユニオン城から離れたタイミングで、俺とウィンドリー姉妹の小隊がユニオン城に突貫し、大将格のヒッチコックを仕留める。
問題は…。
「そんなでかい鳥を相手にできるのか。しかも飛んでいるんだろう」
「問題ない。
ペドロは頭を掻いて笑った。
「１０メートル級のやつならばな。大将格のヒッチコックは３０メートル級だから、魔砲じゃダメージを与えられんし、どうにもならん。がっはっはっは」
なにわろとんねん。
「じゃあどうすればいい」
「私が奴の首につかまって、
レイナが立ち上がり、人差し指を自分の眉間にあてた。
なんなのこの子…こんな血の気の多い子が俺の弟子だったの…。
「レイナの言う通り、巨大なヒッチコックは、地上に降りてくるのを待つか、しがみついて近距離の攻撃を仕掛けるしかない。アーサー、全盛期のおんぬしは、戦のたびに巨大ヒッチコックの首を掻っ切って城に持って帰っとったぞい」
ああ、俺が血の気が多かったんだな畜生。
「というわけで、ユニオン奪還のミッションだ。いつもの通り、もう二度とセント・ソクラテスに帰ってこれんかもしれん。皆の命をくれ」
ペドロがそういうと、皆が立ち上がり、右手で拳を握り、胸にあてた。
ああああああ、もう後戻りできない…。
「<…おいクロエ、ヒッチコックってどれくらいの魔物だ?…>」
「<…一般的なヒッチコックはたいしたことないの。機動力を抑えれば、僅かな攻撃で仕留められる。しかし、ユニオンに巣食っている大将は魔王軍幹部じゃ。強さは図りしれんのう…>」
「<…獲得できるシリングは?…>」
「<…通常のヒッチコックで10万シリング、大将格は幹部じゃから、10億シリングじゃな。アーサー、死ぬなよｗ…>」
「<…いきなりクライマックスじゃねえか…>」
レイナは、目をつぶり、天井を見上げ、敵を撃ち落とすシミュレーションをしている。
アンナは、こちらの視線に気づいて、にっこり笑いながらウィンクした。
ああ、だめだ。
まだゾンビ一体と戦ったことしかないのに、魔物の大群と戦うなんて、想像もできない。
ここで、全てが終わるかもしれない。
本当に、死ぬかもしれない。
天井を見上げると、一面にフレスコ画が描かれている。
幾人もの天使が空を舞う中央に、老人が右手を上げ、天に何かを請うような仕草をしている。
俺も誰かに助けを請いたい…。
そしてできることなら、深夜に布団にくるまって、録画したアニメを観るあの生活に戻りたい…。
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