第6話 金

 町長のペドロに案内されて、城門に来ていた人込みをかきわけ、平屋の家にやってきた。

 石で出来た外壁は苔が生えていて、木の扉も、下のほうが黒ずんでいる。

 ペドロが扉を開けると、ぎぎぎぎ、という鈍い音がした。


「おんぬしの部屋だ」


 中の空気はひんやりとしていて、カビ臭い。


「1年ほど空き家だったからな。近々掃除を頼んでやるから、我慢してくれい。っと…。すぐに戻ってくるから、少しの間、自分の部屋でくつろいどってくれい」


 そういうとペドロは部屋を出て行った。

 窓から差す光が、皿や容器が隙間なく並べられた棚を照らしている。

 ベッドには抹茶色のカバーが掛けられていて、壁には刃の欠けた剣が飾られている。


 前のアーサーの部屋か。

 綺麗好きだったのかな。

 …じゃなくて。


「おい、神」

「なんじゃ?」

「結局、どんな仕組みで俺は魔界村にやってきたんだ」

「『コンテニュー』は肉体を失った魂を、魂を失った肉体に転生させる術じゃ。おぬし、浅川零の肉体を失った魂を、魂を失ったアーサーの肉体に転生させたということじゃ」

「なぜ金をとるんだ」

「人間に乱用されては困るからの。人間の覚悟をはかるために、600億シリングという金額を設定した」

 

 分かったような分からんような。


 「わしは魔界村の神だが、お前らの世界にも行ける。じゃから、魂を二つの世界で行き来させることもできる」


 …待てよ。


「ってことは、こっちの魂を元の世界の肉体に転生することもできるのか」

「できるわな」

「『コンテニュー』を使えば、俺は元の世界に帰れる」

「そういうことじゃ」 

「マジか」


 元の世界に戻れる。

 しかも、肉体を選んで、年齢も指定できる。

 黒歴史だらけの人生をロンダリングして、新たな人生を歩める!

 強くてニューゲームできる、そう、『コンテニュー』ならね!

 ただ問題は…。


「600億シリングを600万シリングほどにまけろ」

「嫌じゃ」

「分割で」

「無理じゃ」


 こ、この野郎。


「ちなみに、現金で支払っても良いし、魔物を倒した実績を金に換算することも可能じゃ」

「どういうことだ」

「例えば、ゾンビ一体を倒せば1万シリングといった具合に、魔物の強さに応じて金を稼ぐことも可能じゃ」

「ということは、強い魔物をどんどん倒せば」

「金がたまる。ちなみに、魔王軍の大将のサタンを倒せば1000億シリングじゃ。『コンテニュー』を使っておつりがくるぞ」

「無茶いうな」


 とはいえ、光明が見えてきたんじゃないか。

 俺はもともと英雄アーサーだったんだ。

 この肉体と、あと、松明と二段ジャンプ…は使えるかわからんが、色々使って魔物を狩っていけば、いつか元の世界に帰れる。


「おい神」

「神様と呼べ」

「俺は魔界村の英雄になる」

「ほう?」

「魔界村のあらゆる魔物をかたっぱしから倒して、600億シリングを稼いで、元の世界に戻る!」

「言うのは簡単じゃがな」

「だってアーサーだぜ!」


 そうだ俺はアーサーだ!

 俺は現代に戻る!

 そして、イケメン俳優に転生して、5歳くらいから人生やり直して、回りにちやほやされる人生を歩んでやる! でも、せっかくだから、カワイイ女の子に転生するのもありかなあああ!


「まぁ、動機はどうであろうと、お前が魔物をたくさん倒せば、魔界村の平和につながる。ウィンウィンじゃな」

「そう、ウィンウィン!」

「…っと。お、ついに逝きよったな。よし…」

「ん?」

「ちょっと待っとれよ」


 と、目の前に丸くて青白い光が現れた。

 その光の中に…人…?

 女の子…?

 

「よいしょっと…。よしよし、ちゃんと『コンテニュー』が成功したな」


 光りが消えると、そこには、亜麻色のローブをきて、床に着くほど長いさらさらの金髪をして、俺のお腹くらいまでの身長の女の子が立っていた。

 襟元の緩いローブの下に白い肌が見える。

 ふくらみの無い胸元も…。


「最近暇でな。しばらく、魔界村で過ごすことにした。この町で老衰で死んだクロエという婆さんを『コンテニュー』して、わしの魂を転生させた。お前についてまわるでな。よろしゅう」


 お、俺の600億シリングが一瞬でッッッ…!

 あと、神っていうステータスと、変な口調だったから、おっさんの声で変換していた俺の脳の処理が追い付かないッッッ…!

 でもなんだろうッッッ!?

 この抑えきれないトキメキはッッッ!?


<~浅川零が『コンテニュー』できるまで、あと、599億9999万シリング~>

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