第5話 帰還

 おっさんの声に従い、俺は町に到着した。

 町の名前はセント・ソクラテスというらしい。

 赤いレンガで巨大な城壁が築かれていて、城壁の上で見張っている兵士が小さく見える。

 巨大建築フェチではないが、テンション上がるな、これ。


「セント・ソクラテスは隣の世界との交易に使われる港町じゃ。物資が集中するため、魔物に襲われて、各所への供給が滞ると魔界村が滅びる。よって、海に面していない町の三方を巨大な城壁で固め、大量の兵士を駐在させておる」

「重要な町だから、要塞みたいにしてるってわけか」


 ていうか、この世界でもちゃんと人が暮らして、文明が発達しているんだな。

 ゾンビと犬と巨大な虫しか見ていなかったから、人類が滅んだ世界なのかと思ってたわ。


 城門にたどり着き、そこにいる初老の兵士に話しかけた。

 事情を説明して中に入れてもらおうとしたんだが、怪訝そうな顔つきだった兵士が、マンボウみたいに目を丸くして、口をパクパクし始めた。


「お…お…お…お主はまさか…騎士アーサーではないかッッッ!?そうじゃなッッッ!?待っておったッッッ!」

「そうなんですが…ってちょっと!」

 と言う間もなく、兵士は勝手口から中に入っていき、暫くすると、ガランガランと何度も鐘を鳴らす音が聞こえた。


「なあおっさん、みんな、俺のこと知ってるのか?」

「そうじゃな」

「なぜ」


 というまもなく、背丈の倍ほどもある木の門が、鈍い音を立てて、上昇し始めた。

 って人、が、山ほど集ってる、何これ…。


「アーサーッッッ!」

「騎士アーサーッッッ!」

「英雄が帰還したッッッ!」

「おかえりッッッ!」


 怒号のような歓声。

 門の奥に、隙間なく詰めかけた人達が手を振っているのが見える。

 こんだけ見られてるけど、俺、パン一なんだぜ…。


 人込みの中から、白髪で、身体の大きい男がこっちに向かって歩いてきた。


「騎士アーサー、待っとったぞい」

 

 遠くで渇いた音が響いた。

 見上げると、花火が打ちあがっている。

 城壁の上にも人が集まっていて、大きな垂れ幕を壁から垂らした。


 男は俺の手を握った。


「俺はこの町の町長をしているペドロだ。騎士アーサー、おんぬしは長年、この町の勇敢な騎士だった。何度も町を、そして魔界村を、魔物の危機から救ってくれた。しかし、どんな人間も老いには勝てん。老いたおんぬしは、先の戦いで魔王軍に殺された」


 ははーん…。


「魔王軍に対抗するためには英雄が必要だ。騎士アーサーはこの町の、いや、魔界村の守護者だ。だから、我々は大量の税金を神様に貢いで、『コンテニュー』を使い、騎士アーサーを復活させようとした」


 はい?

 税金を貢いで?


「<…おい神…貢いでってどういうことだ…>」

「転生するには金がいるんじゃ」

「<…どれくらい…>」

「1回につき600億シリング。貨幣価値がピンとこないかもしれんが、大体、この町の3年分くらいの予算じゃな」


 …こいつ悪徳業者じゃねぇか…。


「無論、町の財政を圧迫する額だ。皆で喧々諤々議論した。異論もたくさんあった。しかし、英雄は必要だという結論に至った。我々は神様に土下座をして頼んだ。ちょっと負けてくれと」


 …えぇぇ。


「そして、金額を580億シリングにしてもらい、おんぬしを復活させた!年齢も20歳と指定したから、きっちり若返っておるな! 俺は嬉しいぞい!アーサー万歳ッッッ!」

「アーサー万歳ッッッ!」

「アーサー万歳ッッッ!」


 町から歓声が上がり、また花火が打ちあがった。


 こうして、公共事業みたいに、町民の血税を使って復活した英雄ことわたしです。

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