第2話 ”あの”

「遅かったなアーサー! 待ちくたびれたわい!」


 耳の奥で音がする。

 足に何かが刺さり、チクチクする。

 屈んで、足元を触ってみる。

 草…かな、これ。

 見渡すと一面、草が生えている。

 地面がぬかるんでいて、土に足の先が埋まって、冷たい。

 ていうか、あれ、裸足?

 落ちる時に靴が脱げたのか…。

 っていうか服も…着ていない!

 パーカーも脱げたの?

 上に何も着ていなくて、下裸足で、ズボン…もはいてなくて、パンツ…ははいている!


 頭の処理がおっつかないので、一旦整理しよう。

 俺はつり橋から落ちた。

 そして、水面にぶち当たると思ったら、暗闇にいた。

 暫く落ちて暗い空にたどり着いて、変な声が聞こえてきて、地面に当たると思ったら、たぶんだけど、回転して、着地した…。

 すごい高さから落ちたのに、着地するっておかしくないか。


「ぅぉい、アーサー! お前、完全にわしのことを無視しとるやろ! 」

「あ…さっきの」

「ようやく主賓が到着したな。ずっとお前を待っておった」

「あなた…誰ですか…?」

「わしか! わしはな! でもな、いきなりばれちゃうとおもしろくないかな~!? クイズにしよう! 問題です、私は誰でしょう?」


 何この人…。


「分からないので、聞いているんですが…」

「そうじゃな! 失敬失敬! わしはな、神じゃ!」

「かみ?」

「そう、神じゃ!」

「かみ?」

「その通り、神じゃ!」

「かみ?」

「何回言わすんじゃい!」

「なんでその…神が俺に話しかけているですか?」

「お前をこちらの世界に転生させたんじゃから、わしがお前の面倒を見なければならんと思ってな。お前が向こうの世界で死んだ時に、こっちの世界に呼び寄せた」

「死んだ!?」

「聖地巡礼の途中で死んで、信者としては本望じゃなw」


 なんでそんなことを知っているの…。


「だって、橋の下には川が流れていて」

「川の底が浅かったんじゃ」

「どれくらい?」

「15cm」

「浅い!」

「そこでお前は死んだんじゃが、わしの力を使って、無理やりこっちの世界にひきづり込んだ。騎士アーサーとしてな!」


 目がくらむような光。

 と同時に、轟音が響き、地面が揺れた。

 前にある木の枝が折れて、葉が燃えている。

 危なかった…。

 こんなところで、変なおっさんと立ち話しながら雷に打たれるとか、洒落にもならん。


「こ…っちの世界って…」

「お前たち人間が住む世界と平行して存在する世界、剣と魔法の世界、いわゆる魔界村!」

「まかいむら…」

「わしはここで長年神をやっておる。皆、様をつけて”神様”と呼ぶぞ!」

「魔界村って…”あの”」

「そう! "あの"魔界村じゃ」


 当たりを見渡すと、生い茂った草の中に、箱のようなものが捨てられている。

 十字架の装飾があるし、あれは棺…なのか。

 なに…どういうこと…"あの"魔界村って…?

 色々大丈夫なのか…?


「わしはお前を、魔界村を救う救世主、騎士アーサーとして転生させた! お前には、世界を救う使命がある!」

「そんなこと、急に言われても」

「この世界は危機に迫っておる。ほら、言うているそばから!」


 目の前の草が、揺れ始めた。

 地面が隆起して、黒いものが生えてきた。

 ってこれ、棺…かな?

 棺が生えて…宙に浮いてる…。

 あ、蓋が開いた。

 中に青白い生き物が見えるけど…。


 「フグゥゥォォォッッッ!!」


 ああ…そういう…。

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