めっちゃ魔界村!

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STAGE 1 ようこそ魔界村へ

第1話 転生

 俺はアニメ『ガールズキューブ』の舞台、麻海市まかいしに遊びに来ていた。

 いわゆる聖地巡礼の旅だ。大学は春休みだし、バイトを辞めたばかりで、時間を余していた。


 旅の2日目、麻海市と化茂野市ばけものしの境にある、麻海岳まかいだけにやってきた。

 麻海岳にかかる日本最長の吊り橋、落花橋らっかきょうは『ガールズキューブ』のオープニングムービーの背景に使われていて、いくつもの"踊ってみた動画"が撮影されている。

 俺もつり橋の中央で『ガールズキューブ』のエリカたんと同じポーズを決め、写真を撮る…はずだった。

 はずだった。


 が、落花橋を渡り始めて、3分の1ほど来たあたりで、身体が宙に浮いた。

 どうやら、浮いたのではなく、落ちた…らしい。

 床が抜けていたのだ。

 事故だ。

 

 俺は落下しながらも、以外に冷静だった。

 下には川が流れている。

 運が良ければ、死なないだろう。

 でも、底が浅かったらダメだ。

 水面との接触面が少なくなるように、お腹の前で手を組み、目をつぶり、祈った。


 でも、待てど暮らせど、水面にぶち当たらない。

 着水しない。

 おかしい。

 …ので、目を開けた。

 暗闇だった。

 何も見えない。

 音もない。


 そして、そんな状態になって、かれこれ10分は経過している。

 俺はまだ落下している。

 

 これはあれだ。

 死んだな。

 死んでしまった。

 なんということでしょう!

 俺は空中で気絶して、そのまま川の底に叩き付けられて、死んでしまったのだ!

 

 ああ、せっかく聖地に巡礼できたというのに!

 来週には『ガールズキューブ』のライブもあるというのに!

 何か月振付を練習して、ライブを待っていたと思ってんだ!

 16連結のペンライトが無駄になったじゃねえか!


 それに俺のハードディスク!

 あれは本当にヤバいって!

 親ドン引きするわ!

 

 この世に未練しかない!


 死にたくない…。

 死にたくないよ…。

 どうせ死ぬなら愛用の抱き枕にくるまって死にたいよ…。


 ああ…。

 泣きそう…。

 こんなに悲しいのは、飼っていた熱帯魚が死んだ時以来だ…。 


 悲しみに打ちひしがれていると、ほんの微かに、音が聞こえてきた。

 風を切るような音。

 耳が圧迫されている気がする。

 

 音はだんだんと大きくなる。

 嵐の時のように、笛を鳴らす音が鳴る。


 そろそろあの世に到着するのか?


 黒い世界が、だんだん、深い青色になってきた。


 マジか。

 ついに来ちまった。

 あの世ってやつに。


 急に目の前が明るくなった。

 明るいなんてものじゃない。

 目が焼けるような明るさ。

 そのあとに、腹に響く轟音。

 

「ぅああぁぁッッ!!」


 思わず声が出た。

 光りと轟音が何度も繰り返される。


 これは…雷?

 

「…-」


 雷が鳴っている。

 これは空だ。

 俺は空を落下している。

 水面に落ちたと思ったら、空から落下している。

 何を言っているのかわからねーと思うが。


「サ…-」


 空は深い青色で、黒い雲が浮いている。

 俺はその雲をぶった切って、落ちている。

 そしてこの恰好。

 これはあれだな。

 『親方、空から女の子が!』

 ってやつじゃ。


「アーサー!」


 それともあれかな、地球に到着するサイヤ人的な。


「アーサーっつっとるやろが!」


 ん、何か声が聞こえた。

 聞こえたっていうか、ヘッドホンをしている時みたいに、耳の奥のほうで響いたような気が。


「だ…れ?」

「ようやく気づいたか! 遅い!」

「え、なに、どういうことなの…」

「色々説明してやりたいんじゃが…。それより緊急のことを伝えなければならん」

「なんですか」

「もうすぐ地面じゃぞ」


 首を上げると、茶色いのものが迫っていた。


「ァァァアアアッッッ!!」


 地面にッッッ!

 当たるッッッ!

 と思ったら身体が急にッッッ!

 視界がまわってッッッ!

 なんかッッッ!

 着地したッッッ!

 無傷でッッッ!


「魔界村へようこそ」

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