第七話 不運な邂逅
『母の乳房(もしくはその代理物)を吸うことは、小児にとって最初のしかも生命に関わる重要な活動であるが、これが小児に早くもこの快感を味わわせたのに違いないのである。』
―ジークムント・フロイト『性欲論三篇』―
松本裕太は思案にくれていた。
(動くべきか、動かざるべきか、それが問題だ。)
なぜ彼は動くことに悩んでいるのか。その答えは彼の両脇にある。
(なんで、俺は二人の寝ている女の子に挟まれてベッドの上で仰向けに転がってるんですかねぇ…「知らない天井だ、ごっこ」をした結果がこれだよ!!しかも、ベッドの上にいるのはいいけど視界の先は天井じゃなく
「知らない天井だごっこ」をしたせいなのかどうかは判然としないが、彼は現代日本で観念される倫理的にも、また日本国の法律的にも非常にまずい状況に置かれているのである。
(しかも、寝てる女の子、見る限り小学生じゃん…)
なんということだろうか。ここまでくれば確実にアウトである。
よしんば裁判所での有罪判決を免れ得たとしても、社会的非難は避けられないだろう。社会的死が彼を待っている。
(ダーブルドアの野郎…なんちゅうところに転移させたんだ……
いや、まぁ死にかけで大変だったかもしれないけど、だからといってこれはないでしょう?いきなり詰みじゃないか!!王手ではないか!!
ここから逆転する為には某鬼畜眼鏡棋士を呼んでこなければならないだろう。)
七タイトル独占の偉業を成し遂げたチート棋士に助けを求めたところで状況は好転しない。とにもかくにも彼は
しかし、そうこうしている間に状況は悪化した。
(えぇ……なんでこのタイミングで手を伸ばすんですか…)
非情なるも、左で寝ている少女が手を伸ばしたのである。
手が身体に触れる。更に、、、更にである。
(手が下半身の大事なところに触れているんですが…)
訂正しよう。正しく言えば、状況は絶望的である。
百戦錬磨のいろいろヤることはヤッているチャラ男ならばこの状況に対して涼しい顔をすることができただろうか?
…できたに違いない。
なんせ下腹部に刺激が与えられたとはいえ、それは小学生ぐらいの女の子による刺激であって、なんら性的なものではないからである。
だが、悲しい哉。この物語の主人公は童貞ボーイである。
彼は曲がって曲がって曲がりまくった
下卑た
だがしかし、彼とて誇りはある。理性世界の住人として必死に劣情を抑えにかかる。
(俺は黒壇の長い髪の毛をしたJKが好きなんだよ!!JSなんて趣味じゃねぇんだよ!!銀髪のJSに惑わされる俺ではない!!!!)
カントが唱えるところの実践理性を総動員する。
彼にとっては初めての夜の
嗚呼!しかし!!しかし!!
彼女の手が彼の下半身のなにを優しくなでた。
「ひゃい!!!!」
彼のすっとんきょな声が虚しく響いた。
「ん…………」
奮戦むなしく少女は起きてしまった。
眠そうな眼をパチクリして彼を見つめる。
「えっ…?…え?」
彼女は状況を飲み込めていないようで、目を大きく見開いた。
…数秒の重い沈黙が流れる。
松本裕太にとっては一瞬の数秒、恐らく彼女にとっては長い数秒であっただろう。
彼女は自らの手が彼のなにに触れているかを認識した。
手を素早く引っ込める。白磁の如き白い彼女の顔が下からみるみるうちに赤くなる。
「あら、可愛らしいですね。」
彼は気持ち悪い喘ぎ声を発しておきながら余裕ぶった。
「ぎやゃぁーーーーーー!!!!!!」
耳をつんざくような悲鳴が上がる。
「わあ!!なによお姉ちゃん!!びっくりしたじゃない!!そんな大声あげてどうしたの??………えっ?」
右に寝ていた金髪の少女が目を覚ます。そして即座に異変に気づく。
「なっ…!!」
「(やばい。どうにか事態を収集しなければ…)
そうですか、お姉ちゃんと言うことは姉妹ですか。
…二人共反応が初々しいですね。男と寝るのは初めての経験で?
それはめでたい。お祝いしなければ。
日本ではこういった時、赤飯を炊くのですが、いやはや、それを振る舞うことはどうやらできそうにない。」
更に余裕ぶる。決して慌てた素振りを見せない。
事態を穏便に収集する為には冷静であることが必須条件である。
否、正しくは冷静であるように見せかけるのが必須条件である(マキャベリの教えを彼は経験で会得しているのである)。
したがって内面では非常に焦っているのだが、そんな素振りは一切見せない。
松本裕太はあくまで紳士にことを運ぼうとする(悲しいことに、変態という尺度で言えば彼の発言は逆効果でしかないのだが…)。
「
金髪少女が咄嗟に魔法を詠唱する。すると少女二人は鱗状の模様が薄っすらと映る光に覆われた。
「お姉ちゃん!!コイツ絶対やばい!!」
「うっ!!うぅ…」
彼の左にいる銀髪の少女は恐怖のせいか目に涙を浮かべている。
「どうされましたか。あぁ、おトイレですか?
まだトイレ一人で行けないんですね。かわいいですね。
トイレに付いて行ってあげましょう。」
「黙れ変態!!お姉ちゃんから離れろ!!」
彼の右にいる金髪の少女は強がりながらも目に涙を浮かべている。
「ほぅ!お姉ちゃん思いの良い妹さんですね。
お姉ちゃんが男に連れられてトイレに行くのがそんなに心配ですか。
ならよろしい。妹ちゃんも一緒にトイレに行きましょう。」
「ひぃ!」
気丈に振舞っていた妹ちゃんは悲鳴を上げた。
(妹ちゃんにまで引かれてしまった。どうしよう。
でも、ここまで来たら、突っ切るか…)
松本裕太が次なる行動に移ろうとしたその時、遂に妹ちゃんの恐怖と怒りが爆発した。
「いやあああぁぁああ!!」
妹ちゃんはその小さな手で彼の右手を掴み、なんと――
平均より小さいとはいえ、大の男である彼を放り投げた。
「うぉお!!…がはっ!!」
天蓋のビロードに包まれながら彼はベッドの向こう側の壁にたたきつけられた。
(なん…だと…?馬鹿な!!JSが俺を投げ飛ばすだと!!??)
「お姉ちゃん!!大丈夫??」
妹ちゃんは松本裕太を投げ飛ばした後、お姉ちゃんに抱きついた。
「えーーん!!怖かったよぉ!!……」
お姉ちゃんは妹ちゃんに抱きついてわんわんと泣いている。
美しい姉妹愛の姿である。
松本裕太がひっくり返ってビロードの隙間から姉妹愛を堪能していると、扉を蹴破って部屋に数人の男が乗り込んでくる。
「何事ですか陛下!!大きな音が…なっ!!侵入者だ!!引っ捕らえよ!!」
松本裕太は数人の男に組み伏せられて地面に叩きつけられた。
「
部屋に入ってきた男たちの一人が呪文を詠唱した。
松本裕太は数人の男と床にサンドイッチされた状態で暗い意識の深海に落ちた。
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