略奪と残虐の世界

「準備はいいな?」

「いつでも行けます」

「よしっ、合図を出せ!」


 森を抜けていく商会の連中は最高にうまい酒を飲むための獲物だった。


「いけいけいけ!」


 俺が盗賊になってもう8年の時が過ぎていた。身体が小さく、弱かったあの時とは違い、今の俺は最前線で略奪を行う小隊に所属した。盗賊団としての組織は国家権力を脅かすほど大きくなり、8年前に顔合わせしたことのある団長は現場で姿を現すことなく、卓上で似合わないことを没頭していた。幹部クラスの人間は皆、現場から姿を消したのだ。


「矢を浴びせろ!血の雨を降らせろ!」

「「おぉ!」」


 滑稽なものだ。力のある者や頭のいい者は皆、卓上と睨めっこする。実力のない者が現場で土を噛むのだ。彼らの持っている力とは何のためにあるのだろうか?


「賊だ!賊が来たぞ!応せ…んっ⁉」

「殺せ!奪え!暴れろ!」


 そう思う一方で、この問いが愚問であることはわかっていた。


 自分1人が生き残るため


 8年も悪事に加担すれば自然と理解する。別に運命共同体ではないのだから、仲間がどうなろうが知ったことではない。友情の欠片もない。うまい酒と肉、女、あとは金さえあればそれでいいのだ。中にはゴミ屑みたいな社会へ反旗を翻すことを目論む無駄な努力をする輩もいたが、大半が欲に駆られたまとまりのない集団であることに変わりはない。


 森の中で人間がそんな醜い争いをしていた。それを木の上にいた生物たちはケラケラと腹を抱えて笑い、自分たちに戦火が降りないうちに逃げていく。逆にカラスなんかはいつ争いが終わるのかを楽しみにしていた。


 俺はカラスたちの餌を作るつもりはないが、迫り来る商会の護衛を殺していく。死んでいく奴らにも人生がある、そんなことはどうでもいい。俺は酒の味も女の味もわからない青年だ。俺の中にあるのは…自由を守ることだけ。この時さえ生きて、宝物を握っていれば、後は笑って生きていられるのだ。これほど楽な生き方は他にない。


「いいか!女子供も容赦はするな!…いい女は残しとけ!」


 俺らを指揮する小隊長は子供の生首をボール遊びをする子供のように嬉々とした笑顔で掲げ、逃げ惑う女子供に絶望を与える。


「この子だけは…!この子だけは…!」


 俺の目の前に転がり込んで来た婦人と坊ちゃんを俺は冷たい目で見下ろすことしかできない。金持ちは生まれつき嫌いだった。


「自分の命くらい…財産で買い換えれるだろ?」


 俺にすがってきた婦人を蹴り飛ばし、まずは泣きじゃくる坊ちゃんから殺した。それも剣は使わず、片手で首を掴み上げて絞殺だ。婦人は顔を蒼白にし、うなだれていた。


「先輩、女運なかったんでしょ?プレゼントです」

「悪いな!へへへ…」

「いやです!おやめを~!」

「喚くな喚くな」


 うなだれた婦人を先輩が回収していく。8年も盗賊団に入れば、相当なベテラン組だが…所詮、俺は子供だった。


「伝達!伝達!王国の兵士がこっちに来やがる!退くぞ!」

「奪えるもんは奪っとけ!」


 人々で入り交じる森に退却の合図である笛の音が響く。盗賊にも笛の奏者だった者がいる。実に似合わない。


 俺らは回収できる金銀財宝を抱え、中には女を担ぐ奴もいたが…早急に撤退を始める。数名、駆けつけて来た兵士の矢の餌食となったようだった。まぁ…俺らの友情はお前らを助けるほど固くないってことだ。


「こりゃ大漁だ…へへっ」


 隣を駆け抜けていく盗賊の言葉に俺もほくそ笑み、心の中で歓喜の雄たけびをあげる。


 ああ!なんと自由な世界だろうか…!

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