未来へ(5)

 いよいよその数字は、一桁に入っていく。

「……これもゼロしか受け付けられないなら、機械の故障かなんかだろうな」

 田坂は不安をかき消すように、わざと大きな声で言った。その間にもエラー表示は続いている。


『3』

『ERROR』


「やっぱ故障か……エラーばっかりじゃ――」

 言いかけて、田坂はハッとした。

 それまでは順調に入力できていたが、未来の日時を入れ始めてからエラーが続いていた。しかし――

「エラー……ばっかりじゃ……な……い……なかった……」

 田坂は思い出した。ゼロ以外、何を入れてもエラーだったが、一度だけ違うメッセージが表示されたことを。

 それは、一週間後を受け付けてもらえなかったため、時間に換算して入れようとしたときだった。

 その時スクリーンには『入力間違いです。再度数字を入力してください』と表示された。

「なんだ……エラーと何が違うんだ……?」

 受け付けられないのなら、同じ『ERROR』でいいはずなのに、なぜあの時だけは違うメッセージが表示されたのか。

 田坂は震える右手を左手で押さえながら、次の数字を打った。


『2』

『ERROR』

『1』

『ERROR』


「…………」

 もう、強がる言葉も出ない。


『0』

『何分後がよろしいですか? 数字を入力してください』

『60』

『ERROR』

『59』

『ERROR』


「嘘だろ……おい……これって……」

 赤い文字を見つめる田坂の脳裏に、ついさっき聞いた東野の声が木霊する。


 それから――タイムマシンで行けるのは、お前が生まれてから死ぬまでの期間のみ、だ


「死ぬまでの……期間……エラー……そんな……まさかっ!」

 田坂の顔から血の気が引いた。

 慌てて次の数字のボタンを押そうとするが、震えと焦りから上手く押せない。指先がぶれて三桁の数字を押してしまった。


『入力間違いです。再度数字を入力してください』

『59』

『ERROR』


 赤い文字を見て、またしても手先が狂い、6以上の数字を押してしまう。


『入力間違いです。再度数字を入力してください』


「故障なんかじゃない……認識してやがる……こいつ……」

 もう耐えられない。順番に数字を減らしていくのがもどかしくなった田坂は、思い切って半分に減らした。


『30』

『計測中です』


 スクリーンに初めて見るメッセージが現れた。

「計……測? 何を計ってるんだ? 何を……」

 田坂は指先だけでなく、体まで震わせていた。

 数秒が何時間にも感じられる。次のメッセージが現れるのを、唇を噛み締めて待つ。

 すぐにピッという電子音が聞こえ、その後に表示が切り替わる。


『ERROR』


「うっ……嘘だろ……なんだよ、これ……なんなんだよっ! 俺があと30分も生きられないってのかっ? 冗談じゃないっ! 出せよっ! ここから出してくれよっ! 早くっ!」

 田坂は叫びながら、その球体のドアを何度も殴った。乗り込む前に降り方を聞いていたのだが、そんなものはもう頭に無い。この音を聞いて、東野か誰かが扉を開けてくれるに違いない。田坂は叫び続けながらドアを強く、何度も殴りつけた。

 球体の中に、警告するような電子音が響いた。

 そして、スクリーンを見る余裕がない田坂のためになのか、滑らかな女性の声でこう告げた。


『何分後がよろしいですか? 数字を入力してください。ちなみに、田坂様の未来旅行時間は13分先までしかございません。何分後になさいますか?』


「13……? ふざけんなっ! くそっ! 出せよっ! 誰か開けてくれーっ!!」

 頭を抱えて叫んだとき、体を押さえつけていたベルトがするすると離れ、扉がスッと開いた。

「あ……開いた! 課長! 俺……お……あ……お前は……」

 髪も服も乱れたまま、田坂は微塵も動けなかった。

 そこに居たのは――球体に寄り添うようにして立っていたのは、七色に光る綺麗なキャンディーを田坂に差し出した、あの小さな男の子だった。

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