第11話 あき

 秋。


 それは完成の季節。


 由真の通う小学校には、体験学習と称する泊まり込みの行事が秋も深まりもう冬かと思われる11月初めにある。

 信州の山あいにまで行くのだが、寒いのが苦手な由真にとってはそんな空気が澄んで一層と体感が寒そうなところ夏に行ってよと思ってしまう。


 自分たちで火をおこしてご飯を炊いたり、テントを張ったり、自然の中での生活を体験するのが目的なのらしいが、ならばなおさら夏だろとは由真以外の子もきっと思ってるはずだ。

 それでも毎年キャンプファイヤーはかなり盛り上がってクラスが一丸となるらしい。


 由真はその体験学習のレクリエーションでクラス単位で披露する出し物である演劇の練習に励んでいた。セリフを覚えようと部屋でぶつぶつとつぶやく。

 役を決めるのは不可能との先生の判断で、すべてを文句なしのくじ引きで決めたわけだが、あろうことか由真はヒロインの座を射止めてしまった。

 5年生ともなると可愛らしいお遊戯とはいかず、かといってこの脚本は誰が考えたのかやり過ぎじゃないのかと思ってしまう。ストーリーは現代版ロミオとジュリエット的な悲劇だ。


 「純愛を貫く由真は玉の輿を疑われさんざんひどい目に合う。挙句の果てに駆け落ちをし、ひっそりと暮らしていたのだが追手が止むことはなかった。思いつめ、二人で心中しようとするも死んだのは由真だけ。残された男は嘆き悲しむも後を追うことはしないという話」

 由真は夕食のとき家族にストーリーを話してみた。

 「なんなのその後味の悪い話は。どこぞの昼ドラだ?」

 お姉ちゃんはそれでも面白そうにしている。

 「小学生がやる内容じゃない気もするけどね」

 ママは口ではそう言うもやはり面白がっている。


 今日は教室で全体練習だ。

 清水くんは木の役で、外のシーンならいつも由真のそばにいる。

 由真の役との差がありすぎだろと思ったが誰もツッコまないせいで由真のほうがおかしいのかと錯覚した。

 でもいつも視線の先に清水くんがいるのは恥ずかしいけど心強かった。


 「待って。そんなの急すぎる……。私だってずっとあなたといたいけど……。……。……。……」

 由真の頭の中からセリフが飛んだ。

 そのとき木が少し動いた気がした。見ると清水くんが口パクで由真のセリフの一部を言っていた。

 「やっぱり何度でも話して許してもらうほうがいいと思うの」

 

 帰り道、清水くんが由真の前を歩いていた。

 「今日はありがと」

 「うん。俺さ、いつも見てたから。なんかセリフ覚えちゃった」

 「え?みんなの覚えてんの?」

 驚いて聞く由真に清水くんは少し照れくさそうに笑う。

 「まさか。坂口のセリフだけだよ。いつも見えるとこにいるから」

 

 夕日が沈む。

 体験学習でやるキャンプファイヤーの火もあんな感じに赤く燃え上がるのだろうか。


 火照った頬をなでる秋の冷たい風は今の由真にはちょうどよかった。



  

 

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