第2話 アルバイト

「おーい、ジョンくーん!」

「おや、どうしたんだい My sweet honey」

「あーごめんごめん、ジョンくん。待たせちゃった?」

「いや、待ってないけど。あのさ」

「何かしら?」

「一ついいかな?」

「よかろう」

「僕の名前、ジョンじゃないんだけど」

「えっ……? あなたが……ジョンじゃないですって……!?」

「違いますね」

「じゃあ……なにジョン!?」

「まずはジョンから離れてみようか」

「ジ     ョ     ン」

「それ離しただけだ」

「ああ……わたしったらごめんなさい」

「わかってくれればいいけど」

「あなたはジョンじゃないわ」

「ええ、そうです」

「まったく、ジョンだと思っていたなんて……! 恥ずかしいことだわ」

「な、何もそこまで……」

「いいえ。恥ずべきことだわ。だってわたし、ずっと人違いをしていたのだから」

「なるほどつまりきみはあくまでジョンが彼氏だといいたいわけだ。ぼくじゃなくて」

「そう。あなたをMy sweet Jyonnだと思ってた。わたしのJyonnはWhere?」

「そこはJohnにしておこう。日本語入力はだめだ。あとルー語がにじみでてる。きみ英語できないやつだろ」

「まあ、ひどい! fack!」

「でたよaにするやつ」

「そういうわけだから。さよなら。わたしは本当のジョンを探しにいくわ」

「もうわかったよジョンでいいよ」

「おかえりジョンくん!」

「腹立つぐらいの変わり身の早さだ」

「自慢じゃないけど、寝返りは得意よ」

「寝てる最中のことに得意も何もないよ」

「得意と言えばだけど、ジョンくんはアルバイトをしたことがあるかしら?」

「めちゃくちゃな話題の転換に置いていかれそうになるけど、あるよ」

「いくつぐらい?」

「ええと、コンビニと、本屋の店員だから、二個だね」

「それって、練習、した?」

「練習とは?」

「ほら、接客業なんだから、その練習とかよ」

「ああ、まあ、したね。親にお客さん役やってもらったりとかさ」

「ふ。でしょうね」

「何でそこでそこまでのしたり顔が出るのか、わけわかんないんだけど」

「あのね、ここだけの話だけど」

「うん」

「本当に、ここだけの話だから」

「わかったよ」

「だから絶対に、ネットに音声アップしたりとか、ブログに書いたりとかしないでね」

「誰がするか」

「ならいいけど……。実は、わたしも……練習……したいのよ。アルバイトの」

「へえ。意外だね」

「でしょう?」

「うん」

「だから、ツイッターとかで絶対に呟いたりしないでね」

「だからしねーって」

「炎上しても困るし」

「100%しないからそれは安心していいよ。それじゃあ、僕がお客さん役をやってあげるよ。ところで、何のバイトをするの?」

「それはまだ悩んでいる最中なんだけど」

「じゃあ、コンビニと仮定しようか。始めるよ」

「了承」

「自動ドアが開いて、入ってくるところからね。ウィーン」

「待って!」

「え?」

「早すぎ早すぎ!」

「どういうこと? 心の準備がいるとか?」

「ちゃんと面接からやってくれないと」

「そこから!?」

「当たり前じゃない! いきなり面接もなしに、店員ポジションでカウンターの内側に立っていたら、変な女の子だと思われちゃうでしょう?」

「何でそこだけ常識的な考えなの……? もっと違うところあるでしょう……?」

「何か言ったかしら?」

「いいえなんにも。それじゃあ、面接官やるよ。えっと、君が今日面接をするMy sweet angelですね?」

「はい。三度目の正直、よろしくお願いします!」

「三度目なの……? まあ、二回ぐらいで諦めて欲しかったけど、その熱意は買いましょう。まず君がここで働きたい理由なんだけど、教えてくれるかな?」

「それはもう前回にお伝えしました」

「……悪いけど、おじさんも結構な歳だからね。もう一回、教えてくれるかな?」

「お金が欲しいからです」

「ストップ! だめだめそんなの!」

「どうして?」

「お金が欲しいだけなら、どこでもいいでしょう。なぜ、ここなのかを、言わなくちゃ」

「あっ、楽そうだからです」

「だめに決まってるでしょう! あなたの熱意、変な方向に向きすぎですよ!」

「待ってください!」

「何ですか?」

「糸くずが……」

「こんなときにそんなの気にしてんじゃねーよ! 熱意をアピールしろ! ね・つ・い・を!」

「お願いします! 働かせてください!」

「もっと!」

「ここしかないんです! お願いします!」

「もっと! 相手に自分の気持ちを受け取ってもらうときに、必要だと思われる台詞を!」

「これ、つまらないものですが」

「合ってる! 合ってるけど違う! あふれ出すここじゃない感!」

「中身は金の延べ棒で~す」

「買収だよそれじゃあ! もう熱意はわかりました! 次、趣味ですが……」

「読書とパソコンと映画鑑賞です」

「全部テンプレ過ぎて話題に困るわ。次、特技」

「糸くず取りです」

「あのねえ! 誰が特技が糸くず取りの人を、採用したがるわけですか! 常識的に考えてくださいよ! コンビニとかの場合はね、接客が得意そうな人を探しているわけですよ! あなたの場合、趣味も特技もなんのアピールにもなっていない!」

「例えばどういう趣味の人ですか?」

「スポーツとか、人と話をしたりすることとかです」

「特技は?」

「食べ物もあるので、料理とかですね。色んなお客様が来ますから、外国語の能力などがあれば、なおいい」

「なるほど、わかりました!」

「おわかりいただけましたか」

「次はそう書いてきます!」

「さすがに見抜くわ! 働く気あんのかあんた!」

「第二志望ぐらいには」

「嘘でも第一志望と言え!」

「嘘でも言えないこともあります」

「ふざけるなー! もう帰ってくれ!」

「ああっ、待ってください!」

「何ですか!?」

「糸くずが……」

「もうだめ! 不合格!」

「了承」

「うるせえ」

「……あ~あ、三度目の正直だったのになあ」

「そりゃそうだよ! あんなのじゃ受かるわけないよ!」

「二度あることは、三度あるってことかあ」

「うまくまとめすぎだ!」

「やっぱり、コンビニはなしね。これでわたしの行きたいアルバイト先も決まったわ」

「へえ。一応コンビニは候補に上がってたってことか」

「そういうこと。今度こそ真面目にやるから、もう一度、練習、付き合ってくれる?」

「もう面接は嫌だよ」

「そんなのはいいわ。実際に働くところよ」

「じゃあいいけど、何をやるの?」

「ブルーベリージャムの蓋を付ける作業」

「一人で練習しろよ」

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