ターンベースド・ダブルバトル
エクレールとトニトルスは、仲の良い双子の狼でした。
彼らは一緒に生まれ、一緒に遊び、一緒に狩りをして、一緒にすくすく育っていきました。二匹とも、お父さんとお母さんのことが大好きでした。
大好きだったお父さんとお母さんは今、目の前に転がっていました。
それはもう、動きませんでした。ただの炭と骨でした。お父さんとお母さんだったものでした。
突如現れた、赤い頭巾を被って炎を纏った人間。お父さんとお母さんの必死の反撃をものともせず、二匹まとめて燃やし尽くしてしまいました。物陰に隠れていた二匹は、それを目の当たりにしながらも、動くことができませんでした。その場で飛び出していっても、殺されるだけだということがわかっていたからです。
赤ずきんが去った後、二匹は両親の骨に顔を埋めて泣き叫びました。
そのとき、何かが天から降りてきたのです。そう、それは深い絶望と怒りを味わった二匹に与えられた『魔女の祝福』でした。
「……兄ちゃんッ!」
弟のトニトルスが叫びました。
「ああ……」
エクレールは身を震わせます。ばりり、と空気が裂ける音がしました。全身に纏った電気が爆ぜる音です。
「この力で、あいつを焼き殺してやる」
そして今、二匹はとうとう宿敵である赤ずきんを発見し、襲いかかったのです。
トニトルスが雷雲へと変化し、離れた場所からのエクレールの指示と合わせて敵が死ぬまで雷を落とし続ける『ピンポイントサンダー』は、二人で練り上げた最初の技でした。
「この技を躱したからってよォーーーッ、いい気になるんじゃあねえぜ……」
エクレールの全身は黒く焦げていましたが、それは分厚い毛皮の毛部分が焼けていただけでした。表皮にはほとんど傷を負っていません。それは、トニトルスも同様でした。キビダンガンの赤は炸裂弾ですが、雷雲へと変化していたおかげで(雷雲化は解かれたものの)ほぼ無傷で済んだのです。
二人と二匹は睨み合います。
そのとき既に、二人はエクレールの作り出した電脳空間に囚われていました。
「これは……!?」
突然色褪せ始めた世界に、二人は戸惑います。
「何をした!」
「クックック、もう遅い……お前らは今、ゲームの中だ」
トニトルスの『雷雲化』と並ぶ、エクレールの能力。電気を操る能力の極致、そう、自分の作り上げたゲーム世界に相手を引きずり込む能力です。
周囲の景色は懐かしさ溢れる8bitに一変。デフォルメされた二人と二匹は、戦闘開始を待って睨み合います。
体力、攻撃力、防御力、素早さはそれぞれ次のようになっています。
桃太郎: 890 78 90 150
赤ずきん: 750 97 73 107
エクレール: 780 90 85 177
トニトルス: 620 72(雷雲時120) 79 98
この世界の中では、素早さの順に攻撃のターンが巡ってきます。攻撃できるのは一ターンに一回。この形式に慣れていない相手は、二匹のコンボ攻撃の前に散るしかありません。
そのとき、遠くで十二時を告げる鐘が鳴りました。戦いのゴングです。
ダブルバトル、スタート!
「お前らはもう俺の世界の中だッ! 二人とも仲良く灰にしてやるッッ! 死に晒せェーーーーッ」
エクレールのターンです。
全身に溜めた電気を、避けられぬよう周囲一帯にまとめて放電します。
全体攻撃!
弟のトニトルスは身体に電気を纏っているため、この攻撃でダメージを受けません。
桃太郎に125のダメージ!
赤ずきんに146のダメージ!
赤ずきんのターンです。
赤ずきんはマスケット銃の先端から炎の弾丸を放ちます。
「ファイアバレット」
「うぐうっ」
エクレールに命中!
エクレールに252ダメージ!
桃太郎のターンです。
桃太郎は黒のきび団子を食べます。
桃太郎の攻撃力がぐーんと上がりました。
桃太郎の素早さがぐーんと上がりました。
トニトルスのターンです。
トニトルスの身体がぼんやりと霞み、黒い霧で覆われていきました。
「雷雲化ッッ!」
トニトルスは雷雲状態になりました。敵の攻撃を受けたら解除されます(その際にダメージを負うことはありません)。
「いいぞトニトルスッ!」
エクレールの激励が飛びます。
続いて二周目、エクレールのターンです。
エクレールは爪の先から高圧電撃を放ちました。それは狙い違わず赤ずきんを貫きます!
「ぐあっ」
赤ずきんに300ダメージ!
赤ずきんは麻痺して攻撃がしにくくなってしまいました。
赤ずきんのターンです。
赤ずきんは身体が痺れて動けません。
桃太郎のターンです。
「キビダンガン、赤!」
桃太郎の掌から撃ち出された炸裂弾が雷雲を爆散させます!
爆風が吹き荒れ、雷雲は跡形もなく吹き飛ばされました。
トニトルスの雷雲化が解けました。
「ちっ……」
トニトルスの雷雲化を放っておけば、次のターンに高威力の雷が飛んでくることは確実。その前に潰しておくのは正しい戦術です。
トニトルスのターンです。
「トニトルス、再び雷雲化だッッ」
エクレールの指示により、再びトニトルスの身体が黒い霧で覆われていきます。
三周目、エクレールのターンです。
「次の俺の攻撃が当たれば、赤ずきんは死ぬ……そうでなくとも体力ゲージは残り僅かになるだろうぜ……そうなりゃあよォーーーーーッ、桃太郎、てめえが打てる『手』は、限られてくるよなァーーーーーーッッ」
エクレールは雷を纏い、赤ずきんに体当たりします!
赤ずきんに295ダメージ!
赤ずきんの残り体力は9です! 命が危ない!
赤ずきんのターンです。
「当たれ……!」
赤ずきんはマスケット銃を乱射します!
エクレールに150ダメージ!
しかし、トニトルスには当たりませんでした。
雷雲化は解除されません。
「くそっ……」
桃太郎のターンです。
「俺が攻撃を当てて雷雲化を解除しなければ、次のターンで雷雲化トニトルスから強烈な雷が飛んでくる……だが俺がトニトルスを攻撃して雷雲化が解けたとしても、次のターンでエクレールの攻撃を喰らえば残りHPの少ない赤ずきんは死ぬ。なるほど、ターン制の世界に引き込んだのもそのためか。よく考えられている」
それをわかっていて、でも桃太郎には、こうするほかありませんでした。
桃太郎は白のきび団子を赤ずきんに使います。
「そうするしかねえよなあーーーーーッ」
エクレールが嬉しそうに叫びます。
赤ずきんの体力が560回復しました!
「すまない……」
「さて、正念場だな。耐えるぞ」
トニトルスのターンです。
「やっちまえトニトルスッッッ!」
「喰らえ! そして死ねッ! ピンポイントサンダァァァーーーーーーッ!」
黒き雷雲から放たれた雷が、桃太郎と赤ずきんを直撃!
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