第3話 石油ストーブの上の焼き味噌

 技術の進歩でファンヒーターが出回るようになってから、実家からはいつの間にやら石油ストーブが姿を消していた。いつ頃かは定かでは無いが。


 部屋で石油ストーブか焚かれてあの独特の匂いが部屋に充満するようになり、加湿用(?)の上に乗ったヤカンから出る蒸気の音と共に冬の襲来を告げる一つの風物詩だった。朝、なかなかつかない石油ストーブに火をつけ、火がつきたての時にだけ出る燃え始めの匂いが結構好きだった。


 石油ストーブを知らない世代も多そうだが、これの特徴はなんと言ってもストーブの上に鍋をかけたりして煮炊き、場合によってはアルミホイルを敷いて焼いたりが出来る所だ(当然熱いので、安全性から言えば廃れて当然なのかもしれない)。この上で正月は餅を焼いたり、煮物が入っている鍋が常にかかっていて良い匂いが部屋に漂っていた。


 しかし、なんと言っても一番好きだったのは、アルミホイルに赤味噌と刻んだネギ、生姜を味醂を少し加えて練ったものを薄くのばしてストーブの上で作る焼き味噌だった。何しろ赤味噌がベースなのでとてもしょっぱいのだが、これがご飯のお供になんとも合うのだ。


 これをストープの上で焼き始めてしばらくすると味噌の焦げた匂いがぶーんと漂ってきて、それだけでも十分食欲を刺激してくる。適当な所で閉じて焼いていたアルミホイルを開いて少し箸でこそげ取って焼け加減を見る。あまり焼けすぎてもいけないし、かといって火が通り過ぎても固くなりすぎてよろしくない。表面は半焦げでちょっと苦いかな?ぐらいが自分は一番好きだったが、好みは人それぞれだろう。


 好みの焼け加減になったらストーブから下ろして、熱い所を急いでこそげ取りながら食卓の共にする。おかずがいまいち気に入らない日でも、これがあればどんどんご飯を食べられるので、食欲が無い時は特に重宝した記憶がある。惜しむらくは石油ストーブがあった時代はまだ酒飲みでは無かった。呑兵衛の今であれば、これだけで日本酒をガンガン呑める事だろう(笑)。


 今では朴歯味噌ぐらいしか類似のものは見かけないが、もし田舎に引っ込んでそこそこ広めの部屋があったら、冬場は是非これを再現したいものである。

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