第2話 梅酢に浸かった茎つき生姜

 梅干しを作ると副産物として「梅酢」が出来る。赤ワインっぽい色合いの、舐めると結構きつめのしょっぱ酸っぱい味がする液体だ。今は家で梅漬けから梅干しを作る家も減っていそうなので、見たことが無い人も多いだろう。


 実家では梅漬けから梅干しと紫蘇干しを作り始めると、副産物の梅酢をインスタントコーヒーの瓶に半分程度入れて、そこに茎付きの生姜に切れ目を入れたものをペン立てのペンのように刺して漬けていた。漬けてから2,3日すると茎の方まで梅酢が回ってきて、茎の切り口の色が紫っぽく染まってくるそうしたら概ね食べ(囓り?)頃となる。


 出来た生姜の根っこの部分を千切りにして干せば紅ショウガの干したものが出来上がるが、子供の頃の僕はそちらにはあまり興味が無く、浸かっている生姜本体にも(たまには囓るが)興味は薄く、もっぱら「梅酢をなめるための道具」として使っていた。そう、瓶から取り出して生姜の部分を口に含み「ジューッ」と口の中で啜るのだ。


 「ジューッ」とすすると、生姜の風味が付いた梅酢が口の中いっぱいに広がり、これまた顎の付け根がきゅーんとする。啜り終わったらまた瓶に差し込み梅酢を付けてすするを何度か繰り返す。数回繰り返すと生姜部分が絞られたようになってしまうが、大体その時点で満足しているので梅酢啜りはお終いとなる(第一その頃は口の中が塩っ辛くてたまらない状態になっている)。


 これが初夏の定番となっていた。あまり夏場にお腹を壊したりした記憶が無いのは、これの殺菌効果でも効いていたのだろうか?(笑)。とにかく、塩っ辛いものや酸味の強いものが好きな、変わった子供だったことは確かだ。


 母親の実家も代が変わり梅漬けを作らなくなったのでもう味わうことは無いだろう味覚ではある。が、今でも梅雨が明けると、ふとした時に懐かしく思い出しては顎の付け根をきゅんとさせている。もし田舎暮らしになったら、自分で作ってみたいものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る