第6話 決闘再び

 俺は城門の近くまで進んだ。俺は考えていた。魔王にはきっと勝てるだろう。でも、魔王に勝てばどうなるのだろうか? 俺は、助け出されたミルフィーと晴れて結ばれ、幸せな日々を送るハッピーエンド。それで物語は終わり。その後は?


 子供が生まれて?

 また、魔王が復活して? 

 子供が魔王を倒しに行く?


 いや、ミルフィーの事だ。この物語に続編なんて無いだろう。ミルフィーと結ばれる所でジ・エンドだ。永久に。エンドになったら、俺という存在はどうなるのだろうか? 消えてなくなってしまうのか? つまり死ぬって事なのか。

 やめよう。こんな事を考えたって無意味だ。全てはミルフィーの采配次第なのだ。俺は意を決して城門に向かった。


「何だ? 緊張してるのか? やっぱり俺が居ないと駄目だな」

 不意に背後より声がして、俺は振り返った。

「ギナ!? どうしてここに?」

 振り返った先には別れたはずのギナが居た。

「やっぱり、お前一人じゃあ心配でな。水臭いじゃないか。仲間だろ?」

 ギナは俺の肩にポンと手を乗せた。

「ギナ……」

 俺はこれが例え、ミルフィーの策略だったとしても心の底から感動を覚えた。ベタだが、こういう再会は悪くないものだ。

 すると、突然、城門が開いた。敵のお出ましか、と思ったら、中から小さな人影が現れた。

「中の雑魚敵は一掃しといたよ」

「ノルン!? お前まで……」

 城の中から出ていたのは、ノルンだった。

「どうして、お前まで。別に俺達と一緒に戦う必要は無いんだぞ?」

「……」ノルンはそっぽを向き、相変わらず、何を考えているかよく分からなった。

「私が別に何をしたって関係ないでしょ。魔王と戦おうが何しようが」

「あ、ああ……」

「うむ。非常に良いツンデレっぷりだ」

 ギナは何故か、そんなノルンの態度に感心したようだった。


 俺達は改めて城門に向かった。やはり、仲間と共に戦うというのは、一人で戦うのとは比べ物にならないほど頼もしいものであった。

 俺達は城の中に入った。そこは以前と同じように真っ赤な絨毯が敷かれたのみの広い空間が拡がっていた。ノルンが雑魚敵を一掃してくれたお陰で、俺達はどんどん先に進んでいくことが出来た。そして、あの魔王が居た玉座の間まで辿り着いた。


「遂に来たぞ」

 俺は勝てる戦いだと分かっているにも関わらず、緊張していた。無理もない。以前なら、あれほど全く歯が立たなかったのだ。

「ほう。よくぞ来た。その勇気だけは褒めてやろう」

 奥から明かりが灯り、魔王の姿が浮かび上がった。そして、その傍らには純白のドレスを着たミルフィーが悲しそうな顔で佇んでいた。

「くくく。嬉しいぞ。我らの婚礼の儀をこのように祝ってくれる者達が居てくれて。それも自らの血を捧げてな……!」

「ふざけるなっ!」俺はたまらず叫んだ。

「何が婚礼の儀だ! ミルフィーを返してもらうぞ。その為に俺達は来たんだ!」

「素晴らしい! 婚礼の宴にちょうど良い。遊んでやろうではないか!」

 魔王は身体を翻したと思ったら、その身体は一瞬の内に無数の蝙蝠へと姿を変えた。そして、俺達の前に無数の蝙蝠が集まり、黒い影を形作った。人の姿をした影はみるみる内に肉を付け、大きな化け物へと姿を変えていった。それは、先ほどの魔王とは比べ物にならないほど巨体であり、頭に大角を生やした醜悪な顔の悪魔の姿であった。


「さあ、来るがいい。勇者達よ!」

 魔王の低く重い声が城内に反響した。

 俺は剣を抜いた。

「待て」ギナが俺の前に出た。

「ギナ……」

 と、いつものパターンならここでギナはあっさりと倒されるはずであった。しかし。

「俺はこの一カ月、遊んでいたわけじゃないんだぜ?」

 俺には耳が痛かったが、ギナのその自信あり気な一言には何か秘策があるような気がしていた。すると、ギナは肩から掛けていた大剣を抜いた。その刀身は今までの冒険では見たことが無いような輝きを放っていた。

「まさか、その剣は伝説の……」

「ふふ。そうさ。この一カ月死に物狂いで探して、遂に見つけた、聖剣グランレギオンだ!」

 正直、聞いたことが無い名前であったが、何だが凄そうな名前である。きっと、その威力も桁違いなのだろう。

 ギナはその光輝く剣を大きく振りかぶり、魔王に目掛けて振りおろした。

 キィィィンと鋭い音が響き渡り、眩い光が飛び散った。


 俺は恐る恐る目を開けると、聖剣が魔王の手によって受け止められていた。一見、魔王に軽く受け止められたように見えたが、魔王の顔は険しくなっており、余裕が見えなかった。そして、ギナの方はありったけの力を振り絞って、剣を前に押し出した。

 そして、ズサッという鈍い音が響いた。

「ぐわぁぁぁぁっ!」

 魔王は苦痛を込めた叫び声をあげた。魔王はその腕を手先から半分に裂かれ、その傷口からどす黒い血がどばどばと流れだしていた。

「凄い……」

 俺は驚いた。あのギナが魔王を相手に圧倒している。俺はこれなら、きっとギナはやってくれると信じていた。しかし、彼の顔には全く余裕が見られなかった。

「ニンゲンンンンンッ!! よくもやってくれたなぁぁ!!」

 魔王は裂かれた反対の腕で思いっきりストレートパンチをギナの腹に入れた。

 ギナはまるでボールのように綺麗に後ろに飛び、壁にぶつかると、壁と共に崩れ落ちていった。

「ギナッ!!」


 俺はギナの助けようと駆け寄ろうとしたが、魔王の猛攻はそれを許さなかった。

「ニンゲンどもぉぉぉ。調子に乗りやがってぇぇぇ! ぶっコロスぅぅぅ!!」

 魔王は俺に向かって、拳を振り上げた。


 駄目だ……。いくらなんでもこの距離からの攻撃を食らえば、即死……。俺は死を覚悟した。その時、ゴンと、魔王の背後から音がした。


 すると、魔王の動きが急に止まった。そして、魔王は気を失ったかのようにそのまま横にズドンと倒れた。倒れた魔王の後ろには、いつも通りの素っ気ない顔をしたノルンが立っていた。

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