第12話
私の一週間はこの瞬間から始まる。
「キリヤさん、月曜日の一限目から大分お疲れの様子ですね」
聞き慣れたこの嫌味に寝ていたという負い目をどこかに放り投げて嫌味で返す。
「先生、キリヤじゃなくてキリタニです、私。二年も担任やってるのにまだ覚えてないんですか?」
先生に嫌味を言われ起こされることなんてあまりに何度もありすぎるから、私もウィットに富んだスマートで洋画みたいな返し方をするように心がけているのだ、えっへん。
「知っていますよ。だからこうやって起こしてるんですがねえ」
先生の溜息を聞いて、これ以上のやりとりは面白くはならないだろうなぁという妙に確信めいた経験則から素直に謝ることにする。
「すいませんでした」
ちょっとはにかみながらモジモジして言うのが反省しているポーズを見せるコツ。
せっかく女子なんだから少しはそういうの使わないとね。
深い溜息をして黒板の前に戻る先生。
特に怒ってはいない様子。
先生が怒っているところなんて見たことないんだけど。
そうしてこのいつも通りの一週間は始まり、先生の低い声を聞きながら貴重な一限目の時間が過ぎていくのでした。
さてここまではほとんどが同じ道だ。
何度繰り返しても同じ。
先生への返し方が若干変わることがあっても展開としてさして変わるものでもない。
まあ授業受けてるだけなんだから変わるほうがおかしいんだけど。
ということで何回目かわからない私の、この一週間が始まったのだ。
単純な話だ。
金曜日の夕方を過ぎると、私はこの時間に戻ってくる。
いつ始まったのかは分からない。
もちろんなんでそうなったのか、なんてのはもっとわからない。
ただただ私はこの一週間を繰り返す。
最初は、こういうものって求める未来に辿り着けば終わるものだと思って、いろいろやってみたりもした。
世界平和とかも考えて思い切ったことをやったこともある。
でも、変えられるのはせいぜい自分が知っている人のことくらいで、そしてどんな風にしても私がこの一週間を抜けることはなかった。
その過程で私は、周りの、橘くんの気持ちを知り前回はそれを元に行動を起こしてみたわけ。
まあ似たような行動を起こして同じ結果を得たのは何度もあるんだけど。
ちなみに明日香の気持ちはわざわざ繰り返さずとも最初から分かってましたとさ。
で、結局前回の状況ではループを抜けることは出来なかったわけだ。
んー、理由が全く見えないというのはどうすればいいか分かんないからなぁ。
ゲームみたいに誰かの死を避ける、とかなら分かりやすいんだけど。
そういう意味で親友の恋を成就させるというのはわかりやすい目標でいいかなぁとか思ってたんだけど違うのかなぁ……。
まあ始まってしまったものは仕方ない。
また一週間を過ごすのだけどこの前と同じことするのもつまんないからなー。
とりあえず明日香と橘くんをくっつけるのは止めにしましょうか。
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