第10話
さて、今日の本題、明日香の相談にのってあげる時間です。
くぅー、このために今週生きてきたのよねっ。
どうせ大したアドバイスなんて出来ないというか、ここまで来たら一本道なんだけどねー。
さっき一度連絡して、八時にもう一回連絡って段取りにしておいたので連絡がつかないということはなし。
というか何時になっても無理矢理にでも連絡を取らなきゃいけないんだけどね。
そうじゃなきゃここまでやった意味がないから。
ん? でも話せない展開も面白いのかもなぁ。
ま、とりあえず炊きつけたものは最後まで燃やしてしまわないとね。
八時ちょっと前に私が連絡する前に明日香から電話が入る。
「華、いつも気を使ってもらってごめん……なんかどうすればいいか分かんなくって……」
私もこの状況で茶化すほどひどい人間ではない。
とはいえ、大体どうなってるのか分かってるし、この現状を引き起こしたのも私だから心苦しさ、負い目は感じながら、それでも一つの幸せへと突き進んでいく。
「で、落ち込んでた理由は分かったの?」
明日香は、躊躇い、口ごもり、そして唸りながらゆっくりと話しだす。
「えっと、えっとね、これ言って良いのかな……」
そのへん律儀なのは流石。
でもそのあたりも気を遣ってあげないと。
乙女と話していることを忘れないように。
「大丈夫大丈夫、誰にも言わないから。で、何があったの?」
電話越しに深呼吸が聞こえる。
大きく息を吐いて、そして彼女は話しだす。
この瞬間は緊張するものだ、私の鼓動も早くなり、息が荒くなる。
「あのね、橘くんがね、好きな人に振られちゃったみたいで……それが誰かは教えてくれなかったんだけど……」
うん、その誰かさんはすぐ近くにいて、結構理不尽な振り方してますからね。
「あたしどうすればいいのかな、って。ここで告白しちゃえって思ったり、傷付いてるんだからそこにつけ込むのは汚い考えとか思ったり、私の中でどうすればいいかわからなくなって……でもあの悲しそうな顔見ると何かしてあげたいけどあたしじゃとか……もう全然何もわかんないんだよぉ……」
段々と涙ぐみ、声も弱々しくなっていく。
大丈夫、何を選択してもあなたは幸せになる、きっと。
あるいは幸せになれないのかもしれないけれど。
そんなことは些細なことになるんだから、きっと。
「そうだね……明日香が悩むのは当然よね。で、明日香は私に、私になんて言って欲しい?」
気遣ってあげようと思ってるのに、出る言葉はこんな言葉。
これが正解だと、正解だと確信がないと出てくるわけがないことば。
正解じゃなくても、私の責任を、私のエゴを薄めてくれることば。
「どうって……わたし……」
「だってきっと後悔するよ明日香は。私が全部を決めたら。私は、どうすればいいかをきっと知ってる分かってる。だからどんなことでも言えるし、どんな結果になるか教えてあげることもできる。でもそれでいいの? あたしは良くない。私はまず明日香の気持ちを聞きたい。そうじゃないと私も……」
前に進めない。
告白すればうまくいく事なんてわかってる。
その後がどうなるかなんて知らない。
でもきっと、もしその後があるならば、あるならば、きっとその過程が結果に、気持ちに……。
「華……うん、そうだね。何でも人に頼って、私ずるいやつだね。決めたよ、華。私、ずるくても、汚くても自分の気持ちを伝えてみたい。それで失敗したら、すごく後悔すると思う。それでも……」
うん、そこまで聞けたら十分だ。
「そこまで聞けたら、もう私が出る幕はないね。よし、明日香、行ってらっしゃい」
今週の私の役目はここで終わり。
後は、結果をただ見守るだけだ。
「うん、ありがとう。行ってくるね」
結論が出れば言葉は少なく。
行く道が決まれば、前に進むだけ。
人なんて単純なものだ。
さあ進もう、未来はすぐそこにあるはずなんだ。
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